コロナ恐慌からの脱出(18)中国のGDP3.2%増が喜ばれない理由

中国政府が7月16日に発表した、今年第2四半期の経済成長率は3.2%だった。プラスであることは予想されていたが、数値が思いのほか高かったので瞬間的にはインパクトを与えた。しかし、翌日までにこの経済成長を伝える世界の経済メディアは、どこか白けてしまっていた。数値が怪しいというわけではないが、中国経済の状態を検討しなおすと、とてもではないが、このまま成長を続けていくとは思えなかったからである。

すでにブログのHatsugenTodayに「中国のGDPが急進したそうだ;それで、いったい何がよくなるのか」を投稿したが、簡単に世界のメディアが指摘した問題点を振り返っておこう。第一に、中国がこれまで長期にわたって経済成長を続けてこられたのは、1996年ころに始まるアメリカのグローバリズムから、アメリカ以上に恩恵を受けたからだった。しかし、いまその恩恵は米中経済戦争によって消滅してしまった。

第二に、中国経済はすでに不良債権まみれとなっていて、その解決のために行った財政支出や金融緩和によって、さらに不良債権は膨らんだだけで、リスクはますます高まっている。この不良債権とは中国の場合には不動産バブルとセットのものだ。いかに中国政府が独裁的に維持しようとしても、いったん不動産バブルが破裂してしまえば、巨大な不良債権は何倍にも膨らんでしまう。さらには、通貨価値の下落とキャピタルフライトの相乗作用が、中国経済の根本から破壊してしまうことになるだろう。

第三に、中国は厳しいロックダウンによって新型コロナの流行を封じ込めたことになっているが、最近になって群発的に新たなクラスターが発生している。6月には北京市の食品卸売市場で集団感染が発生し、300人以上の感染が見られ、同市近郊では50万人規模の厳密なロックダウンを課した。また、同月28日にも北京市から150キロ離れた河北省安新県を「完全に封じ込める」ためのロックダウンも行われている。

たとえば、これから中国がコロナ以前に戻すために海外との貿易を復活させていくとすれば、新型コロナウイルスの激しい逆流も覚悟しなければならない。この場合、国内の特定地域をロックダウンするのとは、また別の困難が待ち構えていることになる。はたして、あの広大な国土に入り込もうとするウイルスを、完全にシャットアウトできるものだろうか。たとえ中国がコロナ禍からの脱出の先駆けとなったとしても、いずれは直面しなければならない大きな壁である。

では、いまの中国経済のコロナからの脱却といわれるものは、どの程度達成されたのだろうか。英経済誌『ジ・エコノミスト』7月18日号に掲載されているグラフを見ながら考えてみよう。まず、中国経済が第2四半期で年率3.2%のGDP伸び率を達成したことは間違いない。これは中国当局の「でっちあげ」ではないかという説もあるが、他の経済指標との整合性から「リアル」なものと考えてよいと同誌は述べる(図1参照)。

中国政府が何より力を入れたのは、工場の再開だった。それは石炭の消費が順調に回復し、一時はコロナ以前の水準を上回った時期もあったことからわかる。人々が職場に復帰するにつれて、公共的運輸業も回復し、さらに、さまざまな資産(おそらく不動産を含む)の売買が盛んになり、資金がこの分野に流れ込んでいるのが見て取れる(図2参照)

しかし、そのいっぽうで国民の消費生活は必ずしも回復しているとはいえない。人の移動はまだ制限がありで、定期的な飛行機による移動はせいぜい7割程度といったところか。同様に地下鉄の移動も7割半くらいまでは回復したが、まだ、完全な復活とはいえない。レストランの利用にいたっては、いまだにコロナ以前の半分以下なのである(図3)。したがって、総じていえば「中国のコロナ危機からのリバウンドは目覚ましいものがあるが、しかし、それは常態に戻ったとはとてもいえない」と同誌はまとめている。

これは英経済紙フィナンシャルタイムズ7月16日付が指摘していることだが、中国政府は例によって、そして懲りもせずに、政治的に景気回復を演出しているようだ。たとえば、同紙の分析によれば中国の国有企業の投資が今年上半期に2.1%増えている。それに対して、民間企業の投資は7.3%も減っている。これは、中国における国有企業の圧倒的なシェアを考えれば、膨大な政府資金が経済に投入されているということである。

こうしたデーターを日本と比べてみる必要があるが、それは読者にお任せしたい。ここで付加的に少しだけ見ておきたいのは、アメリカのウォール街の状況である。周知のようにアメリカの金融市場、とくに株式市場は、コロナ禍が始まってしばらくしてからリバウンドし、いまやバブルが指摘されるほどである。

もちろん、この活況はトランプ政権が行っている金融緩和政策によって、金融市場に資金があふれかえっているからだが、興味深いのは日本と同様の個人向けの補助金が、デイトレーダーを通じて株式市場に流れ込んでいることである。正式のデーターが発表されているわけではなく、「可能性」として語られているだけだが、私は大いにその可能性は高いと思う。

そのなかで、ウォール街においても活況ぶりには濃淡があって、これも『ジ・エコノミスト』7月18日号に載っているグラフで眺めておくことにしたい。同誌によれば、いまのウォール街を理解するには、3つの部分を観察する必要があるという。第一に、投資銀行の動向。第二に、融資の引当金がどうなっているか。第三に、その他のすべてである。

第一の、投資銀行は、あたかも「わが世の春」を謳歌しているかのようである。何しろ実体経済が萎縮してしまっているので、投資先といえばウォール街くらいしかなく、しかも、バブル状態なのだから高リターンもこれまでは期待できた。たとえば、JPモルガン・チェースやゴールドマンサックスの好成績は、こうしたコロナ・パンデミックがもたらしたバブルに乗って得られたものにほかならない(図の下段)。

さて、第二の、銀行による融資の引当金はどうかといえば、同誌によれば将来の不確実性を反映してきわめてコスト高になってしまっているという(図の上段)。たとえば、投資銀行のようなところに資金を回す場合はもちろんのこと、地道な事業への融資もリスクが高いので、引当金がたっぷりと必要になってしまう。同誌によれば、その典型的な例がウェルズ・ファーゴとシティ・グループの業績であって、これらは明らかに利益を下落させてしまっているのがわかる(図の下段)。

同誌は、これからの予測として「バラ色のシナリオも可能である」という。ただし、それは政府による景気刺激策がこれからも継続されて、いまの金融市場をがっかりさせないでくれればの話である。はたして、そんなことがトランプ大統領に可能なのだろうか。あるいは、バイデンが大統領選挙に勝ったとして、新しい大統領にもトランプ並みの野放図な財政と金融を続行する度胸があるのだろうか。

せっかく米中経済の立ち直りの現実に目を向けたので、ちょっとだけ脱線して考えてみたいことがある。それは、米中ともに圧倒的な財政政策と金融政策によって、目の前のコロナ禍から経済を脱出させようとしているのだが、そのいっぽうで両者ともに巨大なバブルをさらに拡大させているというまぎれもない事実である。

危機に臨んでは、財政政策と金融政策で乗り切るというのは当然ではないかといる人が多いだろうが、いま考えておくべきことは、経済がまったく投資と消費において停滞してしまったときにも、バブルは簡単に起こってしまうということである。しかも、まったくインフレの兆候なく無意味な投資だけが膨らんで、経済をますます空回りさせていくのだ。

財政政策にしても金融政策にしても、ただ単に量を競うような「理論」は見直す必要がある。経済が機能しなくなった根本的な原因を解決することなく、巨大な「量」だけ投入しても、その見返りにやってくるのは、それまで見たこともないような巨大なバブルの崩壊だけである。

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