コロナ恐慌からの脱出(23)ハイテク株の下落は市場全体への警告

9月9日、アメリカの株式市場は大幅反発して、関係者をほっとさせた。このところ下落していたテクノロジー株がこの動きを主導したからだ。しかし、この反発はいわゆる「押し目買い」であって、ハイテク株を取り巻く状況が変わったからでも、経済の見通しがよくなったからではない。

面白いことに翌日、ウォールストリート紙に同紙コラムニストのジェームズ・マッキントッシュが「ハイテク投資家たちはロックダウンの終わりを憂慮すべきだ」という記事を寄せている。「ほっとしている」べきではない、というわけである。ここでの「ロックダウン」とは、都市封鎖という意味ではなく、コロナ対策全般を意味しているのだろう。

マッキントシュは、いまのアメリカ株式市場についての見取り図を簡単に描いてくれているので、この見取り図を用いて、ハイテク株ブームの本質、これからのアメリカ経済の行方、そして、アメリカ株式市場の見通しを考えてみよう。

マッキントシュによれば、いまの株式市場は次の3つの観点から見るべきだという。第1に、「センチメント(地合い)のスウィッチ」、第2に、「経済の見通し」、第3に、「経済のファンダメンタルズ」。あまりにも当然のことをいっているようだが、将来が見えなくなったときこそ基本に戻るべきで、この3つをざっと検討してみよう。

まず、市場のセンチメントだが、ハイテク株が急伸していたのは、情報通信技術が経済の牽引車と見なされるだけでなく、コロナ禍のなかで数少ない有望銘柄となったからだ。客観的に考えれば、いかに情報通信の「革命」期だとしても、いまの株価に見合うだけの成長が見込めるわけではなかった。今回の下落は、こうしたセンチメントが変わったことを示しており、いわゆる「調整局面」のレベルのものと考えてよいだろう。

次に、経済の見通しだが、すでに「コロナ恐慌からの脱出(21)コロナ・ワクチンの完成がバブル崩壊の引き金だ」で述べたように、実体経済は中国との経済戦争によって、停滞を余儀なくされていた。情報通信分野においてすらも、中国との軋轢が続くことが予想されており、必ずしも楽観できるものではない。その後のコロナ禍という異常な条件が消滅あるいは軽減されれば、こうしたコロナ以前の状態が経済の見通しの前提となる。これは株式投資にとって決して好ましい状態ではない。

さらに、ファンダメンタルズについても、アメリカ経済が良好だとはいえないだろう。マッキントシュはファンダメンタルズをハイテク産業だけに限定して論じているが、アメリカ経済全体を見ても、コロナ禍に苦しんでGDPが前期比較で31・7%(年率換算)下落した現実があるだけだ。ここから、ハイテク株の調整を考慮すれば、その分、他の分野の株式にすんなりと資金が向かうという必然性はない。

こうして見れば、コロナ禍からの脱出の手がかりが得られた段階で、目の前に広がるのはハイテク株の上昇から根拠が大きく失われ、資金の流れが株式から実体経済や債券市場へシフトする局面を迎えながらも、ファンダメンタルズは元に戻らないという現実である。これでどうしてアメリカの株式が活況を呈することが可能なのだろうか。

もちろん、そういう可能性がゼロではない。それは、大統領選をトランプが制して、引き続き財政および金融において、野放図なバラマキと大緩和のトランポノミクスを継続すると宣言したときだろう。バイデンも勝利するために、同じようなことをすると言い出すかもしれないが、やはり政権が変わるときには市場に警戒感が広がる可能性が高い。

マッキントシュは記事の最後で「経済の改善が今後も継続して、ハイテク株だけでなくそれ以外の銘柄の見通しがいっそう改善することを望んでいる」などと楽観的なことを述べているが、彼の分析からすれば必ずしもそうならないほうが自然ではないだろうか。

いま、とりあえず注目すべきは、センチメントなのだろうが、いずれコロナ禍から抜け出したときの現実が、株式市場にも投資の前提となってくる。それは来年の前半には明らかになるが、その前に大統領選が控えており、ここでもハイテク株下落の「第2波」が来るかもしれない。

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