ウクライナ戦争と経済(13)ハイテク株とビットコインが一緒に暴落する必然

株価が堅調であるには条件が悪すぎる。とくにアメリカの場合にはハイテク株の過度な評価が剥落しはじめているので、下降圧力はますます高くなっている。興味深いのはこうした株の下落にともなって、あるいはそれ以上に、仮想通貨の下落が激しいことだ。かつては株式とは異なる動きを見せることがウリだった。しかし、いまやナスダックとの親密な社交ダンスが投資家たちをいらだたせている。

まず、簡単にアメリカの株価下落を見てみよう。「懲罰的ともいえる激しい売りは5月9日にもやわらぐ兆しがない。アメリカの株価下落は2022年で最低のレベルまで落ち、石油やビットコインと同様に乱高下している」(ウォールストリート紙5月10日付)。同紙が掲げているグラフを見ていただければ、ダウ、S&P500、ナスダックもすべて地獄へ転がり落ちているが、とくにハイテク株のナスダックが一番ひどい。

それは仕方のないことで、FRBは金利を上げるさいにも、最初は0.75%もあるかのように匂わせ、実際には0.5%にとどめるというフェイントをかけてくれたが、こんなものは「朝三暮四」みたいなもの。けっきょくは同じことだったのだ。それを喜んでいる株式市場の高揚気分は、朝3個、夕4個のドングリを、朝4個、夕3個にしてもらって喜ぶサルたちと同じで、とうぜんのことながら高揚は営業日1日と持たなかった(グラフはwsj.comより)。

ウクライナ戦争へのアメリカの加担はますます加速して、ロシアの旗艦モスクワを沈める情報を流したのが同国の哨戒機であることが明らかなのに当局は否定したりするので、これもフェイントで、ますます泥沼にはまるのではないかとの不安は高まるばかりだ。そもそも、ハイテク株だってまったく上昇の根拠がないわけではないが、どう考えてもITバブル以来の異常高値で、いったん落ち始めればもうとめどがないのである。

興味深いのは、短い歴史のなかでも「株価下落のときには強い」との神話ができていたビットコインを中心とする仮想通貨(暗号資産という名はもう廃語ではないのか)も、急激に下落してしまったことだ。昨年の11月のピークに比べると、なんと50%超も下落したのである。「仮想通貨は7カ月前のピークに比べると1兆6000億ドルを消滅させてしまった。これは金利が上昇して投資家たちが、世界の金融市場のなかでも、最もリスクの高い分野から逃げていることを示している」(フィナンシャルタイムズ紙5月10日付 グラフも同)というわけだ。。

おそらく、これからは株式でもビットコインでも、変な理屈でバブル状態を正当化するよりも、まともな論理でその崩壊を説明するほうが楽になるだろう。もっとも、楽なのは単に報道する側であって、迂闊で素朴な投資家たちは七転八倒しながら、暗い淵のなかに引きずり込まれていくだけのことだと思われる。

なぜビットコインを初めとする仮想通貨が、ナスダックと歩調を合わせて下落していくのかは、素人目にも説明が簡単だ。いずれもハイテクの申し子であり、ナスダックのハイテク株が下落していけば、当然、ハイテクへの過剰評価に気づかざるを得ない。過剰評価に気づけば、この高いリスクは危険すぎると思うわけである。そしていうまでもないが、コロナ対策のためにダブついたマネーがこの過剰評価を目がけて投資されたという点でも同じだったのだから、急激なインフレによって財政支出も金融政策も抑えに向えば資金の流れは変わってしまう。

かつては株式市場が不調のとき仮想通貨市場が沸き立つという神話があった。これはむかしむかし、キプロス危機という事件が起こったとき、それまで「遊び」にすぎないと見られていたビットコイン市場が急騰したことから、あまり根拠のない仮想通貨無敵神話が出来てしまった。この数年の金融機関や投資コンサルタントたちの仮想通貨推奨の傾向も、多くのデータを説得材料にしていたとは思うが、他の金融市場に対する「ヘッジ」(リスクの相殺)としての性格を見込んでのことだった(グラフはwsj.comより)。

仮想通貨への投資家には3種類あるといわれた。第一が、仮想通貨が本当に将来は法定通貨に昇格すると信じている投資家。第二が、金融市場への投資のポートフォリオを組み立てるさいに仮想通貨が有効だと冷静に判断している投資家。第三が、まったくのバクチ感覚で、下落したときに買っておいて、高騰したときに売れば儲かるという投機家的な連中。

いまや、さすがに第一のタイプは絶滅したかと思っていたら、今回の下落のニュースに対してコメントを書いている人のなかには、最終的には自分は勝者になるから、持ち続けるなどと述べている剛の者がいた。気の毒だが、単なる犠牲者になるだけだ。第三の投機家的な連中には、エルサルバドルのナイブ・ブケレ大統領(写真)も含まれるだろう。今回の下落で大統領がどうしたかは、まだ明らかになっていないが、ひょっとすれば、また国費を使って「底値を買えば将来上昇して大儲け」とかいうのではないだろうか。この大統領を選んだ同国国民への憐憫を禁じ得ない。

そして、第二の連中が金融業界のシタタカ者たちだったわけだが、それでもポートフォリオの構成に失敗した機関や投資家は多いようだ。前出のフィナンシャルタイムズの記事の最後の部分を紹介しておこう。ある投資ストラテジストは次のように嘆いている。「かなりの投資家たちが仮想通貨をインフレに対するヘッジに使おうとしてきました。ところが、仮想通貨はナスダックとまるで結合双生児のように同じ動きをしてしまうのですよ」。

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