ウクライナ戦争と経済(6)穀物市場の高騰と忍び寄る保護主義の脅威

ロシアがウクライナに侵攻して以降、市場が混乱しているのは金融や石油だけではない。巨大な世界の穀物市場も根本的な見直しをせまられている。ウクライナとロシアによる輸出量を合わせると、世界の穀物市場の4分の1を占めていた。それがいま急減し、あるいは途絶えている。

ブルームバーグ4月5日付は「1200億ドルの世界穀物貿易がウクライナ戦争のために再構築を迫られている」を配信した。この記事は、世界の穀物市場の4分の1を供給していたウクライナとロシアからの穀物が急減あるいは出荷停止になった衝撃の大きさを、かなり詳細に伝えている。

「ウクライナは、トウモロコシ、小麦、ヒマワリ油などの輸出で、世界で最大級の国である。それがいまや、穀類でみると戦争前は月量500万トンの輸出だったものが、50万トンまでに縮小してしまった。その損失はウクライナの農業相によれば、15億ドルにのぼるとのことだ。世界最大の輸出国であるロシアからの小麦は、まだ市場に流れているようだが、これも将来的には分からない」

テレビなどでの報道によれば、すでに小麦の価格は世界で70%の上昇をみせ、また、戦場となったウクライナの農産物の産出量は、少なくとも30%下落しているとのことだ(左のグラフ)。もちろん、急激に価格が上昇した穀物市場では、新しい供給者が登場している。ブルームバーグによれば、目立っているのはインドだ(下のマップ)。同国は、歴史的にみて自国の巨大な人口を賄うため、大量の小麦を生産してきたが、いまや巨大な輸出国として市場に躍り出た。

また、ブラジルの小麦輸出は戦争が始まってから3か月で、昨年の輸出量を超えている。さらに、アメリカのトウモロコシは、この4年で初めてスペインに向けて出荷された。加えて、エジプトは除草剤との交換でルーマニアの穀類やアルゼンチンの小麦を獲得することを考えているという。

そもそも、カナダやブラジルの旱魃があったためにすでに混乱をきたしていたのに、さらに、今度の戦争でそれが激しく加速された。国連はシカゴ先物市場で食糧が20%の上昇をみせたとき警告を発したが、このときすでに1310万人の飢餓が発生していたといわれる。この数値はコロナ・パンデミックがピークにあったとき以来の高水準で、さらに上昇している可能性が高い。念のために述べておくと、穀物の価格が上昇すると、購入できなくなる貧困国がいくつも生じる。そうした国の貧困層は自分たちとは関係のない、距離的にもかけ離れた地域の戦争によって、飢餓にあえぎ餓死者が生まれることになるわけである。

もう少し細かく見てみよう。たとえば、インドはエジプト、トルコ、中国といった穀類の巨大輸入国だけでなく、ボスニア、ナイジェリア、イランなどとも輸出の交渉をすでに行っているという。同国からの輸出は今年から来年にかけて、1200万トンにのぼると予測されている。ブラジルは実質的に小麦の輸入国なのだが、その国ですらこれから10年を見据えて(価格急騰も関係あるだろう)輸出を考えている。今年はすでに小麦を210万トン輸出しており、これは昨年の輸出量の2倍に相当するという。

比較的豊かな輸入国側もこの戦争を機に、新たな姿勢でこの事態に臨もうとしている。たとえばスペインは、ウクライナからの第2位のトウモロコシ輸入国だったが、これまでの除草剤規制を緩和してアルゼンチンやブラジルからの輸入を考えている。すでにこの3月には2018年以来初めて、アメリカから14万5000トンの穀類を輸入している。

また、イタリアの場合はウクライナとロシアから家畜飼料用の穀類を輸入してきたが、黒海が海上封鎖されたためにそれが途絶えた。いま必死に新しい輸入先を探しているが、いまのところアメリカが候補らしい。しかし、同国の輸入会社によれば「これは時間がかかりそう」とのことだ。

ウクライナでの戦争が早期に集結するとの期待があったときは、まだ、一時的に他の相手を探すことで済んだが、長期化していくことが分かってからは、もはや世界の穀類の流れそのものが、大きく変わることを前提とせざるをえなくなっている。いまの価格上昇はそれを加速しているが、これから自国の食料を維持することを最優先する「保護主義」が急激に台頭してくることは明らかで、さらに市場を混乱させるだろうとブルームバーグは見ている。

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