ウクライナ戦争と経済(4)ロシア通貨ルーブルの「強靭さ」は本物か

この投稿は「経済制裁下のロシア国民の消費生活」の続編だが、独立したものとしても読んでいただけると思う。アメリカと西側諸国がいっせいに経済制裁を行なっているのに、ロシアの国内経済があまり影響を受けていないように見える。急速に下落したはずのロシア通貨ルーブルはほぼ回復し、国内の物価もそれほど上昇していない。いったいなぜなのか? データから透けて見えてくるのは、それほど奇妙な現象ではない。

冒頭で述べたように、すでに「経済制裁下のロシア国民の消費生活;見かけよりずっと健全な理由は何か」をご覧になった人はご存じだと思うが、経済制裁によってロシア国民の生活に影響が生まれ、それがプーチンの野望を砕くという構図は、いまのところ実現していないように見える。世論調査のプーチン支持が80%という報道はともかく、マスコミ関係者や閣僚レベルでの反逆はあるものの、肝心の経済制裁はなぜ効かないのかと憤っている人も多いだろう。

この問題についてデータを提供している英経済誌ジ・エコノミストが再び3月31日号で「なぜルーブルは回復力が強いのか」を掲載している。惹句が「ロシア当局の介入がルーブル選好に上乗せしているようだ」というのだが、もう少し内容は多い。この「上乗せ」が生み出した効果とその持続性について紹介しておこう。

まず、グラフを見てみよう。これは前述の投稿にもあったグラフだが、ウクライナ侵攻を断行して2日後には金融制裁が発表されると、ロシアの通貨ルーブルの対ドル価値は40%も下落した。ところが、その後、じわじわと回復して、いまや制裁開始前と比べて、1ドル=82ルーブルという、わずか4%安に戻ってしまった(グラフ上)。これでは経済制裁がほとんど効いていないと見えてもしかたないだろう。

ジ・エコノミストの見るところでは、この回復ぶりを実現したのは、ロシア当局の3つの対策だった。第一に、ロシアの中央銀行が2月28日に、政策金利を9.5%から20%にまで引き上げたこと。第二は、外貨を購入した場合には30%の課税をしていること(以前は12%だった)。第三が、石油や天然ガスの輸出業者に、獲得した外貨はその80%はルーブルに転換することを義務付けたことなどである。

さらに、クレムリン政府は3月31日から、外国によるロシアの石油と天然ガスの購入はルーブルで行うことを要求したので、これもルーブルをさらに回復させることになったと同誌は見ている。しかも、プーチン大統領は、ルーブルで払ってくれない「非友好国」に対しては、ガスの供給をカットすると脅した。これはヨーロッパ諸国にとっては頭の痛い話で、これまでロシアの石油や天然ガスはユーロで購入してきたのである。

ドイツなどは天然ガスの約半分をロシアから買ってきたので、かなりの影響が出るため緊張が走った。それでもドイツ政府がガスの管理を行ない、ロシア依存から脱却を宣言した。ジ・エコノミストは「ヨーロッパが天然ガスを必要とすると同じくロシアもお金が欲しい。ロシア政府の歳入の3分の1は石油と天然ガスで得ている」と意味ありげだが、ドイツとロシアの間に、何か抜け道でも存在するという意味かどうかは分からない。

では、これからロシア通貨のルーブルはどうなるのか。そして、その結果としてロシア国民の生活はどのような影響を受けていくのだろうか。同誌はさらなる2つのデータから、長期的にはルーブルは、やはり「頽落」していくと予想している。第一に、ロシアとアメリカとの金利差を元にした、1年後の予測為替レート指標から判断すると、「ルーブルはいまの価値(対ドルで82ルーブル)からさらに4分の1ほど下落して、110ルーブルくらいになると予想される」という。

また、もうひとつの判断材料は通貨のブラック・マーケットでの動向で、いま1ルーブルは135ドルから250ドルで取引されていることから、通貨ブローカーたちの判断はいまよりずっと安くなると予測していることが分かるという。こうした2つのデータを加えて考えれば、「最近の価格はともかくとして、長期的にルーブルは下落していくというストーリーが描ける」というわけである。

歴史的に見ても、これまでルーブルは長期的に下落する傾向が続いている(グラフ下)。1998年にデフォルトを宣言して約70%下落し、1999年にプーチンが政権をとると、さらに70%の下落を見せた。「そしていま、ヨーロッパ諸国はロシアの天然ガス依存から脱却しようとしており、それが達成されていけばルーブルもさらに下落することになるだろう」。

もちろん、ルーブルが下落していけば、外国からの商品の購入が困難になり、ロシア国民の生活レベルは低下していくことになる。とはいえ、それがそのままロシア国民がプーチンの失脚に向けて行動を起こすということを意味しない。ロシア国内の産業は何ら傷ついていないのだ。たしかにルーブルの反応は遅いが、その遅い通貨の反応ほども、ロシア社会の反応は機敏ではない。ロシア国民にとっては気の毒なことに、まだしばらくは、じわじわとレベルが低下していく生活を続けざるをえないのではないだろうか。

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