ウクライナ戦争と経済(8)米国の8.5%のインフレはプーチンのせいなのか

アメリカではインフレが昂進して、3月は前年度比で8%を大きく超えてしまった。この上昇について米政府はウクライナ戦争の影響が大きいと説明しているが、与党の民主党の一部からバイデン政権の一連の過剰な刺激策のせいだとの批判もでている。おそらく、FRBはさらに緩和策を縮小していくと思われるが、このインフレの本当の原因は何なのか。

フィナンシャルタイムズ紙4月13日付は次のように報じている。「米労働統計局は4月12日、3月のインフレ上昇率が前年度比で8.5%と発表し、ウォール街の予想をわずかながら上回った。前月比では1.2%の急速なジャンプで、2月の数値が0,8%であったことを思い出すまでもなく、これは2005年9月以来の急激な加速ということになる」。

食料とエネルギーを除いたインフレ指標である「コアCPI」は、前月比で0.3%と昨年9月以来の緩慢な上昇となったものの、前年比で見た場合には6.5%になっていて、まったくインフレが抑制されているという感じがしない。しかも、専門家からはさらに上昇するリスクが否定できないとの指摘もある。

同紙によれば、「バイデン政権はすでに4月11日に、物価上昇は戦争のせいだと表明している。ホワイトハウスのジェン・サキ報道官はCPIの数値について『極端な上昇はプーチンの価格つり上げのせい』と指摘した。しかし、穏健派の民主党議員ジョー・マンチンは同月12日に『FRBも政府も十分に政策において失敗しており、今回のインフレの数値は国内の実感のほんの一部の現れといえる』と批判している」。

フィナンシャルタイムズ紙は、石油の激しい価格上昇を指摘するいっぽうで、国内の高騰していた中古市場がようやく沈静化していることにも触れ、FRBのインフレ抑制策は、インフレ率においていまの半分くらい、つまり、2.4%を目指すのではないかと示唆している。さらに、FRBは膨らんだバランスシート9兆ドルの縮小化を目指し、これから3か月の間に、1カ月で950億ドルくらいずつ減らすのではないかと見ている。

英経済誌ジ・エコノミスト4月12日も同じ問題を取り上げているが、こちらは統計学的にもう少し手の込んだことを加えて、アメリカにおける今回のインフレの数値が、ウクライナ戦争(プーチンのつり上げ)のせいなのか、そうだとすれば、いったいどれくらいまで言えるのかを割り出そうとしている。

「3月においてはウクライナ戦争のインフレへの影響は、ヨーロッパの場合にはその半分くらいを説明しているといえる。しかし、アメリカの場合には、もっと広範囲の影響を考えなくてはならない。コアCPI(食料とエネルギーを除いた物価指数、日本のコアコアCPIに相当する)においても、前年比でみると6.5%も上昇しているからだ」

そこで同誌はインフレを生み出している要素別の「寄与度」を算出しているが(図版2の右上)、これで見るとヨーロッパではエネルギーの占める割合が圧倒的だが、アメリカの場合には、商品価格上昇、サービス料上昇も同じくらいの寄与をしており、食料もヨーロッパよりは大きいことが明らかになる。つまり、ウクライナ戦争の影響も大きいが、それは他の要素と並んで大きいと言わねばならないわけだ。

同誌によれば、そもそも、アメリカのコアCPIには問題があって、単純に食品とエネルギーを切り捨ててしまうのは、国民が実感するインフレ率を算定できないという。食品もエネルギーも国民生活には欠かせないものだからだ。なかにはダラス連銀のように、極端な上昇率あるいは極端な下落率を示したものを、最初からカットして計算するという乱暴な方法も登場している。それで計算すると最低でも24%最高で31%も低い数値が出てきてしまうので、今回も3.6%という数値(それでもFRBの目標2.0より高い)になっているわけだ。

ここらへんは、以前、「コロナ恐慌からの脱出(43)なぜFRBパウエル議長は緩和策をやめるのか」で紹介しておいたが、ジ・エコノミストは「ウルル」と呼ばれるバランスのよい(と同誌が主張する)独自の方法によって再計算している(図版2の右下)。これでいくと、今回のウルルは6.0%に近づいており、充分に高い数値と言える。同誌もいまのアメリカのインフレは「FRB議長ジェローム・パウエルが密かに汗をかくのに十分の値である」と考えているようである。

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