中国の不動産バブル崩壊!(5)恒大集団がデフォルトした裏事情をみる

恒大集団がついにデフォルトを起こして、12月9日にはヨーロッパ系格付会社フィッチ・レーティングスが「一部デフォルト」(注1)への格下げを発表した。フィッチは恒大集団に事実関係を問い合わせたが、返事はなかったという。これまで何度かデフォルトの情報が流れたが、同社はなんとか切り抜けてきていた。いまさら驚く人は多くないと思われるが、それでも背後ではぎりぎりまで、さまざまな回避策が検討されたようだ。

すでに12月7日、不動産デベロッパー大手の恒大集団が、米ドル建ての社債8249万ドル(約93億円)の利払い期限を迎えたとのニュースが世界を駆け回った。これは11月に実施しなかった利払いのモラトリアム(猶予期限)が切れたことを意味し、事実上のデフォルト状態に陥った。多くの人は当然と思いながら、なにか不自然なものを感じたのではないだろうか。

このときまでにも、何とか利払いができたのは、中国政府が恒大集団の利払いについて、創業者の許家印の個人的財産を売却して払うように指示したからだというニュースもあった。フィナンシャル・タイムズ12月9日付によれば、今回も恒大集団が保有している優良資産(たとえば、都市開発のプロジェクトなど)を売る圧力はあったというが、「許はよほどの値段でなければ、価値のある資産は維持したかった」。

恒大集団のさまざまなプロジェクトは、他の企業や地方政府との協力によって推進されてきた。たとえば、高級住宅地の造成などの場合には、住宅販売会社に恒大が出来上がった住宅を売るわけだが、建築中に住宅販売会社は恒大から住宅を買ったことにして購入金を支払うわけである。

とはいえ、住宅販売会社も資金が潤沢とはいえないので、地方政府に資金的にバックアップしてもらう。地方政府は、土地の使用権をデベロッパーである恒大に売り渡して収入にしてきた。つまり、恒大のビジネスには、他の企業や地方政府が資金の流れで密接に絡んでいた。そこで窮地に陥った恒大集団は利子払いの資金調達のため、繰り返し住宅販売会社、武漢市や南寧市の当局と会談をもったようだが、うまくいかなかったわけである。しかし、なぜだろうか。

ウォールストリート紙12月9日付によれば、冒頭に述べたフィッチによる恒大集団の格付け引き下げを受けて、香港で開催されたセミナーで講演した中国人民銀行総裁の易綱は「いくつかの不動産会社が短期的に引き起こしたリスクは、長短期的にはマーケットをくつがえすようなことはないと思われる」と語ったという。「これは市場で起こったことであり、法律に基づきマーケット・オリエンテッドに扱われるべきものです」。

たしかに、市場で起こったことは市場の論理でというのは正論だが、はたして、いまの中国でマーケット・オリエンテッドということが可能かどうか、かなり値引きして聞いておくべきだろう。先進諸国における中央銀行は程度の差こそあれ、政府からはある程度独立した存在とみなされる。しかし、共産党がすべての上に位置する中国では違う。ことに習近平の中国共産党ではまったく違う。

ウォールストリート紙12月8日付は「中国の中央銀行は北京が支配する」との記事を掲載して、最近、とくに中央銀行の締め付けが強くなったと指摘している。「最近のこと、反汚職トップ機関から派遣された共産党の検査官は、北京の中心部にある人民銀行を立ち入り調査した。このとき説明を受けた行員によれば、検査官は口頭や文書で検査を行ったうえでかなり厳しい警告を行った。中国政府は中銀の独立性についての議論は容認できないし、金融当局は他の政府機関と同じく共産党に従うべきだ、と言ったというのである」

もちろん、先進諸国で新しい経済学といわれている学説なかには、アメリカにおいてもFRBはなくするか、あるいは財務省に従うべきだと主張するものがあるが、さすがに独裁的な政党に従えとはいわない。そしてまた、中国の場合には異端の学説などではなく、現実そのものであり、逆らえば弾圧が待っている。ましてや、いまの習近平の独裁体制においては、市場原理など尊重されるわけがない。

不思議なのは、そこまで独裁的な支配が確立していれば、なぜ、恒大集団くらい救済するのは簡単だと思うのだが、おそらくこの国における権力構造は、我々が考えているよりもっと複雑なのだ。金融政策そのもの、地方政府そのものが、権力闘争の対象となったり、闘争の砦となったりして、本来の機能がしばしばどこかに行ってしまう。今回の不良債権問題も、もめているうちに政治闘争へと「変異」する危険もあるかもしれない。

(注1)「一部デフォルト」とは「部分的な債務不履行」であり、「債務不履行が起きているが、清算型倒産手続きが開始しておらず、かつ事業停止には至っていない状況を指す」(日本経済新聞12月9日電子版17:16)。なお、同紙によると、恒大は事業を継続し、外貨建て債務の再編に向けて債権者と協議にはいると述べているとのこと。広東省政府は恒大に監督チームを送り込むといっているらしい。

●こちらもご覧ください

中国の不動産バブル崩壊!(1)恒大集団が社債利払いに失敗した
中国の不動産バブル崩壊!(2)レッドラインを超えて感染する危機
中国の不動産バブル崩壊!(3)住宅にも波及し始めた価格下落
中国の不動産バブル崩壊!(4)全人代はついに不動産税を課す決定をした
中国の不動産バブル崩壊!(5)恒大集団がデフォルトした裏事情をみる

仮想通貨の黄昏(1)コロナ禍が急騰させ、そして没落に向かわせる

ポスト・コロナ社会はどうなる(3)世界を「戦後」経済が待っている

コロナ恐慌からの脱出(1)いまこそパニックの歴史に目を向けよう
コロナ恐慌からの脱出(2)日本のバブル崩壊を振り返る
コロナ恐慌からの脱出(3)これまでの不況と何が違うのか
コロナ恐慌からの脱出(4)パンデミックと戦争がもたらしたもの
コロナ恐慌からの脱出(5)ケインズ経済学の皮肉な運命
コロナ恐慌からの脱出(6)世界金融危機とバーナンキの苦闘
コロナ恐慌からの脱出(7)「失われた30年」の苦い教訓
コロナ恐慌からの脱出(8)ルーズベルトの「未知との遭遇」
コロナ恐慌からの脱出(9)巨大な財政支出だけでは元に戻らない
コロナ恐慌からの脱出(10)どの国が何時どこから先に回復するか
コロナ恐慌からの脱出(11)高橋是清財政への誤解と神話
コロナ恐慌からの脱出(12)グローバリゼーションは終焉するか
コロナ恐慌からの脱出(13)日米の株高は経済復活を意味していない
コロナ恐慌からの脱出(14)巨額の財政出動を断行する根拠は何か
コロナ恐慌からの脱出(15)米国ではバブルの「第2波」が生じている
コロナ恐慌からの脱出(16)家計の消費はいつ立ち上がるのか
コロナ恐慌からの脱出(17)死亡率の上昇は経済回復を遅らせる
コロナ恐慌からの脱出(18)中国のGDP3.2%増が喜ばれない理由
コロナ恐慌からの脱出(19)米証券市場の3局面をR・シラーが分析する
コロナ恐慌からの脱出(20)米中コロナ・ワクチン戦争の行方
コロナ恐慌からの脱出(21)コロナ・ワクチン完成がバブル崩壊の引き金だ
コロナ恐慌からの脱出(22)FRBのパウエル議長はインフレを招く気なのか
コロナ恐慌からの脱出(23)ハイテク株の下落は市場全体への警告
コロナ恐慌からの脱出(24)下落するトランプとアメリカの評判
コロナ恐慌からの脱出(25)今回のハイテクバブルの「遺産」とは何か
コロナ恐慌からの脱出(26)ワクチン完成で始まる証券市場の乱高下
コロナ恐慌からの脱出(27)パンデミック終息後にインフレが来る?
コロナ恐慌からの脱出(28)米証券市場がバブルでない根拠などない
コロナ恐慌からの脱出(29)ゲームストップ騒動の背後の「大物」
コロナ恐慌からの脱出(30)ロビンフッドが崩壊の先駆けとなるか
コロナ恐慌からの脱出(31)群衆の知恵から群集心理に転落したゲームストップ現象
コロナ恐慌からの脱出(32)どの国の消費が先に復活するのか
コロナ恐慌からの脱出(33)バイデンの大盤振舞いが行き着く先
コロナ恐慌からの脱出(34)バイデン大統領の刺激策の「勝者」は誰なのか
コロナ恐慌からの脱出(35)サマーズ元財務長官のバイデン財政批判
コロナ恐慌からの脱出(36)歴史的統計からポスト・コロナ景気を予測する
コロナ恐慌からの脱出(37)インフレ世界への移行が始まっている
コロナ恐慌からの脱出(38)クルーグマンの最新ポスト・コロナ経済論
コロナ恐慌からの脱出(39)米国の住宅ブームはバブルでないというウソ
コロナ恐慌からの脱出(40)住宅バブルでないという報道の多いことがバブルの証拠
コロナ恐慌からの脱出(41)終焉後も経済は低インフレと低金利が続くのか?

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です