仮想通貨の黄昏(5)ビットコイン保有者トップ0.01%が流通量の27%を支配

ビットコインはごく少数の保有者が、ビットコインのほとんどを占有しているというニュースが、ウォールストリート紙12月20日付に掲載された。「ビットコインの『たった1%』が仮想通貨の富のライオンの分け前をコントロールしている」というのがその記事である。しかし、そんなことはビットコインについて多少とも調べた人なら知っている。このシリーズでも何回か分散表を添付しながら説明してきた。

最近もブルームバーグが10月25日付で「ビットコインは今も少数者の手のなかにあることが、研究で明らかに」という記事を掲載していた。概要だけを引いておくと「調査はビットコインの分かり難い保有構造に光をあてた」「トップ1万人の投資家がビットコイン流通の3分の1を支配している」。ということは、こんどのウォールストリート紙の記事は、何か新しい研究が発表され、新事実が付け加わったということになる。

ということで、勇躍して読んでみたのだが、どうやら導入文にある「新しい研究はわずか0.01%のビットコイン保有者が全体の27%の流通量を支配している」ということに尽きている。トップの1万人が全体のコインの66%(3分の1)を支配していたことが分かっていたが、さらに0.01%が流通量の27%支配していたとなれば、「その集中度がやっぱりすごい」とはいえる。しかし、実はそれはBitcoinDistributionの分散表(下表)を見ていれば予想できたことだった。

しかも、10月に注目された研究の発表者がMITスローン・スクールのアントワネット・ショアーとロンドン・スクール・オブ・エコノミックスのイゴール・マカロフだったが、こんどの「新しい研究」も同じ2人で、前回も今回も全米経済研究所(NBER)での仕事というのは、何か驚くべき新発見が出てくるのを期待していた者にとっては、「肩すかしもいいとこ」と言ってしまいたくなる。

とはいえ、こうした統計的な研究というのは、数値に含まれている仮説的な部分とか、データの誤差をどこまで許容するかとかの、テクニカルな問題がたくさんあって、今回はいよいよ0・01%の流通部分が晴れて公開できるところまできたということなのだろう。そこで気を取り直して考えてみると、やっぱりこのピラミッド型支配はひどすぎると思う。こうした極端に歪んだ保有構造の仮想通貨を、これから保有してみようという人がいれば、ここで改めて説明した完全なピラミッド的構造を、しっかり確認してから考えてほしいとしかいいようがない。

ウォールストリート紙の記事では、もう少し派生的に明らかになった事実も指摘されている。たとえば、トップ1万人の保有者は5百万ビットコインを保有しており、これはいまのドル換算で2320億ドルに相当し、全体の3分の1に相当する。アメリカのトップ1%の家計の資産は全体の3分の1の資産を占有しているから、ビットコインの占有率はアメリカの富の占有率よりずっと高いことになる。

さらに、約90%のビットコインによる取引は、2つのやり方で行われている。ひとつ目は、ネットワークを通じてのビットコインの取引であり、それはコーヒーを買うときにビットコインを使うといったものである。もうひとつは、匿名性を維持したい人たちが、ワレット間で内容がよく分からない曖昧な取引を行なうやり方である。残りの10%が「リアル・ボリューム」と呼ばれる取引であり、他の通貨との交換や物品の売買に用いられ、それはビットコインによる取引量全体の75%に達しているという。

話が錯綜したかもしれないので、最後に繰り返しておく。まず、ビットコインのトップ1万の保有者がビットコインという富の3分の1を占有している。また、トップ0.01%の保有者がビットコインの流通量全体の27%を支配している。この占有率は、アメリカにおけるトップの家計が示している占有率より、かなり高いことはあきらかだ。ビットコインの保有構造と流通構造をよく把握すれば、改めて歪んだ実体があきらかになるわけである。

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