ウクライナ戦争と経済(35)ロシア経済はいまも良好というのは本当か?

ロシア経済はいまも順調だといわれたら、驚く人も多いだろう。実際、データから見れば「それほど悪くない」のである。こうしたデータを目にして地団駄踏む人もいるだろうが、いちおう見ておくほうがいい。では、なぜそうなのか。戦場となっているウクライナは当然のことながら、エネルギー危機のヨーロッパも景気後退にあえいでいる。まずはグラフを見ていただきたい。

英経済誌ジ・エコノミスト12月29日号は「2022年のロシア経済は走り続けている」との記事を掲載したが、その結論は「世界第9位の経済は予想されているよりずっと良好だ」というものである。武器弾薬が枯渇して前線で停滞し、最近はついに国内の軍事施設もウクライナのドローンに空襲されているというのに、経済はそこそこ安定しているというのはちょっと信じられない気がする。

しかし、同誌はウクライナの善戦を称え、ロシアの侵攻を激しく批判してきたメディアである。ということは、この記事が親ロシア派による根拠のないプロパガンダの片棒担ぎをしているというわけではない。ただ、ジ・エコノミストはちょっとだけシニックなところがあって、「こんな見方をすれば、別の視界がひらけますよ」という記事をときどき載せることがあるのは間違いない。分析など紹介しなくとも、この記事に付されたグラフを見れば、だいたいのところが分かってしまう。

この一見不思議な現象について、同誌が指摘しているのは2点、政治と貿易である。言い換えれば国内のテクニカルな金融財政政策と、炭化水素化合物=石油と天然ガスの輸出がまだ続いているというわけだ。前者については中央銀行の金利操作については、ウクライナ侵攻が始まって間もなく、世界のエコノミストたちが密かに溜息をついたほどの見事さだった。ルーブルが金融市場で暴落すると同時に金利を急激に上げて、ルーブルのレートを回復させた。同時に、取り付け騒ぎも起こっていた市中銀行の金利を上げさせて、銀行に預金を引き戻した。そして、それから金利を元に戻し、さらに景気刺激のために低くしたわけである。

貿易については、まず、炭化水素化合物(石油と天然ガス)を、西側の経済制裁にこだわらない中国やインドに売って、外貨をともかく稼いだ。かなりのバーゲンだったがかまわず売りまくった。そして、この外貨を用いて海外から製品を買ったが、これも中国やトルコなどに介在してもらって、経済制裁をうまく潜り抜けて行った(同誌は「スカート」という言葉を使って書いている)。

もちろん、同誌はあまり触れていないが、ロシア国内は戦場になっていないことも大きい。最近になってウクライナのドローンが、軍事飛行場を攻撃するようになったが、これはいまのところ「軍事施設」に限定されている(このことはジ・エコノミストだけでなく、西側メディアの称賛するところだ)。広大な領土、豊富な資源、優秀なテクノクラートが、いまのところかろうじてプーチンの戦争経済を維持しているといえる。

「リアルタイムのロシア経済データは西側が懸念するような光景を描き出している。いまのところ、ロシア経済は予想に反して良好といえる。そのいっぽうで、ヨーロッパ経済はエネルギー価格の暴騰で、景気後退に落ち込みつつある」というのが同記事の締めくくりだ。この締めくくりの「リアルタイム」というところがミソで、各種長期予想はロシア経済がじわじわと下落していくことをいまも予告している。にもかかわらず、それがまだ起こっていないということである。

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