ウクライナ戦争と経済(25)米国の住宅賃貸料の急騰が意味するもの

アメリカの住宅賃貸料がものすごい速度で上がっている。あるデータでは、昨年初から比べて40%も上昇したというのだ。この数値はネット上のアパート賃貸市場のものらしいが、公的なデータでも住宅費の伸びは1年前より5.8%上昇している。消費者物価指数が6月は9.1%もの上昇率だったから無理もないと思うのだが、これは明らかに住宅バブルではないのか。それなら、いよいよ住宅バブル崩壊がやってくるのではないだろうか。

ともかく、フィナンシャルタイムズ紙7月23日付の「住宅賃貸料の上昇はアメリカのインフレから逃れられる分野はないことを意味する」との記事から数値を見てみよう。アメリカの住宅費は消費者物価指数の3分の1を占めているとされており、6月の消費者物価は1981年以来の急伸で9.1%に達した。食料品とエネルギを除いた「コアCPI」で見ても、住宅費は全体の40%を占めている。住宅費の急上昇が国民の生活に与えるインパクトがどれほど大きいか想像できるだろう。

アパートメント・リストというウェブ上のアパート賃貸市場では、2021年1月から今年6月までの賃貸料の伸びは40%に達している。また、労働統計局の数値で同年同月比で昨年と比べると、6月の住宅費の伸びは5.8%の上昇であり、前月比でも0.8%ということになる。また、住宅を貸す側からみたデータでの伸びは前月比で0.7%の伸びで、12カ月では5.6%ということになり、ほとんど同じといえる。若干のずれがあるが、おそらくそれはデータの収集法が異なるからだろう(以下の図版はすべてft.comより)。

しかし、問題はここにきて急に住宅賃貸料が急上昇している理由が、実は分かりにくいことだ。これまでは、住宅価格とその賃貸料との間にかなりの差があっても、それは当然のこととされてきた。消費者物価指数には賃貸料のほうを使うので、住宅価格がかなりのバブルになっていても、賃貸料はそれほどの上昇を見せないということは珍しくなかった。ところが、いまや賃貸料のほうも、住宅バブルをかなりの程度反映するようになったのである。

同紙の説明では次のようになる。住宅を購入しようと考えている人たちは、いまの住宅ブームよる高価格についていけないため、レンタルつまり賃貸できる物件に向かうようになった。ところが、それがかなり増加したために、これまでは目立たなかった賃貸料の急伸となって表れたというのである。

もうひとつの説明は、住宅を貸す側から見た場合、これまではなるだけ低賃貸料で提供してきた。ところが、FRBがインフレを抑えるためにどんどん金利を上げているために、将来的な住宅ローンを考えるとかなり高くつくことが予想できる。そこで、賃貸料もかなりあげて利用者に提示せざるをえなくなったというものだ。

これまで住宅購入と住宅賃貸との1カ月分の差は、約25%、金額にして約500ドルだった。ところが、いまやこの差がどんどん縮小しているようなのである。これは経済の仕組みから考えてば当然のことで、いってみれば健康な状態といえるかもしれない。

しかし、よく考えれば住宅価格がバブルであるにも関わらず、購入者がいまも多くいるという、根本的な部分が異常だと、認識したほうがよいのではないだろうか。すでに住宅価格は歴史的にみて「危険水域」に入っている。にもかかわらず金利が下がっていたので投資あるいは投機対象となった。価格の急上昇に目をつけた不動産ファンドは、投資ファンドから資金を得てさらに買占めに走って、一戸建ての住宅を買えない人たちが多くなった。そこで仕方なくアパート(マンション)を借りる人たちが急増した。これが真相ではないのか。金利が上がっていまのバブルが崩壊した後には、またしても住宅ローンの評価が甘かったとか、いたるところに利益相反の事実があったとか、不動産ファンドがやりすぎたとか、その理由はいくらでも出てくるだろう。

住宅業界はいまも「住宅が圧倒的に少ない」と主張しており、問題の解決には住宅の建築がもっと安くなるように、コロナ禍とウクライナ戦争よって寸断された建材のサプライチェーンを回復させるべきだという。しかし、はたして建築件数の上昇とサプライチェーンの回復が、アメリカ国民にとって安価で良質な住居を、手に入れやすくなることにつながるのか。どうも疑わしいように思われる。

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