新型コロナの第6波に備える(5)中国の「ゼロ・コロナ」は五輪までもつのか?

中国の新型コロナ対策は、いわゆる「ゼロ・コロナ」政策で、どんなに少数の感染者でも、徹底して封じ込めることが前提となっている。もちろん、本当に「ゼロ」ではなく、12月30日現在、平均で1日162人の新規感染者が出ている。また、パンデミックが始まって以来、感染者は101683人、死者は4636人に達している。もちろん、この数字は、全人口14億人に比べれば驚異的に少ない。

これは徹底した検査と、8割を超える自国ワクチン接種を行ない、「たった1人でも、たったひとつのクラスターでも」ロックダウンを実施するという政策の賜物である。さらにいま中国は2022年2月のオリンピック開催を前にして、海外からの渡航者は14日間以上の隔離を行うなど「水際作戦」を徹底させ、コロナに対する「人民の戦争」に入っている。しかし、オミクロン株の登場によって、緊張が高まっていることは間違いない。

この半年を振り返っても、本当にこのまま「ゼロ・コロナ」を続ける気なのだろうかと、疑わせる事態は何度かあった。たとえば、7月末には新型コロナの感染が急拡大し、それまでの数カ月は感染者が報告されなかったのに、1200人以上の感染が明らかとなった。このとき中国当局の一部では「ゼロ・コロナ」をやめてはどうかとの議論が出てきたというが、これを聞いた習近平は激怒して議論自体を叩き潰したといわれる。

また、12月23日には、西安市をまるごとロックダウンしたので世界中が驚いた。この都市は人口1300万人であり、最初に新型コロナが発見された武漢市の1100万人を上回っている。文字通り、中国最大のロックダウンだった。このときも発見されていたクラスターはひとつだけで、「牛刀をもって鶏をさばく」の喩え通りではないかといわれた。いまの時点でも、同市の検査が陽性となったのは810人(12月28日現在)で、これはオリンピックに向けての「喝」だったとの説もある。

このように緊張だけは高まる「ゼロ・コロナ」だが、はたして五輪まで持つのかという疑問も生まれるようになってきた。ひとつは、いうまでもなくオミクロン株の登場で、症状が軽いとの予想が出ているが、半面、感染力は4倍あるといわれている。厳しい規制をしている中国でも急速に感染を広げて、生活や経済に打撃になる危険は十分にある。また、以前から指摘されてきたことだが、自前のワクチンを使用している中国では、その有効性がかなり低く、とくにオミクロンの感染には効かないと言われてきた。

香港の医療機関での研究によれば、中国で一般的に使われているコロナワクチン「コロナヴァックス」の場合、「たとえ2度接種していても、またブースター(3度目)を打っていても、オミクロン株の感染を阻止することはできない」とのことである。もちろん、他のワクチンと同様に重症化や死亡の抑制は可能だが、オミクロン株の拡散をストップできない。(ジ・エコノミスト12月28日号)

それでも、圧倒的な北京政府のパワーによって、なんとか、オリンピック開催までは漕ぎつけられるかもしれない。しかし、問題はその後にやってくる常態への復帰の過程で、中国は「出口波(イグジット・ウェーブ)」によって危機を迎えるとの指摘がある。たとえば、前出のジ・エコノミストは「ゼロの代償 ひとつだけのクラスターで中国は大都市のロックダウン」との記事で、コロナ規制を撤廃して元に戻るそのとき、他の感染拡大を経験した国々とは異なり、急激な感染爆発に直面すると予測している。

これは常識的に考えても分かる。まず、この2年間にさんざんウイルスと闘った他の国では得られている「免疫の層」が中国にはないことが挙げられる。また、オミクロン株については、症状がやや軽いとしても、ワクチンや以前の感染によって生じた免疫を、巧妙に回避することが指摘されている。さらに、前述のように中国の自前ワクチンは有効性において問題がある。これでは水際作成を解除した直後から、感染爆発が始まるのは避けられないだろう。

とはいうものの、この「出口波」を完全に回避するのは難しいが、この過渡期を乗りきる2つの希望がないこともないと、香港大学の免疫学者ベン・コウリングは語っている。ひとつが、オミクロン株の感染を防ぐことができる新しいワクチンを、中国が自前で開発することだ。もちろん、北京政府のプライドが許せば、海外でいま開発中のオミクロン株用ワクチンを輸入してもよい(これはかなり難しいけれど)。

もうひとつが、オミクロン株の研究が示唆しているように、新型コロナウイルスが変異の末に、感染力はあっても症状がもっと軽いものになってしまうことだ。「自然が救いの手を差し伸べる可能性もあります。もし、新型コロナウイルスが重い症状を引き起こさなくなれば、出口波はもはや恐れるに足りないことになる」。しかし、これは「自然」が中国にやさしかったときだろう。ジ・エコノミストは次のようにまとめている。

「統計の怪しげな操作や、情報の国家的支配によって、中国はパンデミックが始まってから2年間、経済への長期的な打撃も食い止め、少ない死者と感染者で切り抜けてきた。大きいとはいえ出口波も、他の国に比べれば死者数を少なく済ませられるかもしれない。しかし、恐ろしい天災を制御できると豪語する、共産党の足元を掘り崩してしまうことになるだろう」

オリンピックが終わって勝利宣言したとき、中国にとっての最大の危機がやってくる。もちろん、オリンピックが終わる前にも、中国政府が少しでもスキを見せれば、激しい感染爆発が起こるかもしれない。また、オミクロン株がさらに変異して、条件が悪化することもあるかもしれない。いずれにせよ、これから数カ月にわたり、新型コロナとオリンピックを巡って、中国は綱渡りの状況が続くことになる。

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