新型コロナの第8派に備える(3)中国が150万人の死者を出す前に出来ること

中国がゼロコロナ政策を放棄したことによって、どんな結果が生まれるのか。最も気になるのは死者数だが、これまでのシミュレーションでは150万人前後が多いようだ。ただし、そのほとんどは中国政府がこれまで発表してきたデータを使っているので、不幸にしてもっと多くなっても不思議はないだろう。

これまでのシミュレーションは、ジ・エコノミスト誌が数十万人、フィナンシャルタイムズ紙が3カ月で160万人、コロンビア大学のアダム・トゥーズ教授の155万人などがあった。ジ・エコノミストは12月15日号に「本誌のモデルでは中国のコロナ死亡者は膨大なものになる」を掲載して、150万人と計算した背景を詳しく紹介し、以前の数十万人から大幅に上方修正している。

こうした中国におけるコロナ感染拡大について、誤解している人が少なくないようなので、まず、そのことから触れておこう。中国ではゼロコロナ政策が破綻して、いまや野放し状態になっているが、これは「自由を求めた抗議運動の勝利」と言って、喜んでいられない事態だということである。ましてや、それをいまの日本の状況にかぶせて、日本も規制を撤廃しろと叫ぶのは勘違いも甚だしい。

というのは、ゼロコロナ政策というのは、欧米のロックダウンや日本の緊急事態宣言のように、一定の自由を認めつつ実行されたものではなかった。ほんの数人の感染が確認されても地域を丸ごと封鎖するか、住民すべてを別の施設に閉じ込めてしまった。都市のロックダウンというのも、中国の場合は完全に閉鎖して、外出も禁止してしまったのである。

もちろん、こうしたゼロコロナ政策と並行して自国製のコロナワクチンを接種したが、メッセンジャーRNA型ではなく、効果がかなり低いものだった。しかも、ゼロコロナの封鎖措置が切り札とされたせいか徹底した接種が行われず、特に高齢者層の接種がかなり遅れていた。つまり、中国の人たちは感染による免疫を持つ人の割合がまだ低く、また、ワクチン接種においても強い免疫の獲得以前のまま、自分で自分を守るしかない状態で、いまの危機に直面している(図版と写真はThe Economistより)。これは世界にとっての脅威であり、もちろん日本にとってもそうだ。分かりやすい話をすれば、中国の感染爆発は日本の経済にも大きなマイナスの影響を与えることは間違いない。そしてさらには、すでにアメリカのコロナ専門家が指摘するように、中国の感染爆発は新しいタイプの変異株を生み出す危険性をもっている。

ジ・エコノミストが行っているシミュレーションは、上海にある復旦大学のジュン・カイなどのモデルを基に作られたものだが、それほど精度の高いものでないことは、同誌が認めている。まず、中国政府が発表してきたデータを修正しながら使っているが、それは「他にデータがないから」で、データにおいて信頼度がかなり低い。また、最近の免疫研究が示しているように、免疫形成の過程じたいが予想以上に複雑なもので、感染と接種と免疫の関係解明だけでも困難が多くある。したがって、同誌は「これはシナリオを提示するだけで、未来予測ではない」と断っている。

しかし、他のシミュレーションに比べれば、事情を正々堂々と明かしている分だけましといえる。ジ・エコノミストが示しているいくつかのシナリオで最悪なケースは、これから数カ月の間に約96%の中国国民がコロナウイルスに感染する場合で、集中治療ベッドはすぐに供給され、コロナ死亡者の90%が60歳以上だと仮定して計算してある。この場合は150万人の死者が出るというわけである。もちろん、すでに触れたように、このときには中国経済にも大きな影響があり、感染拡大のピークには中国労働人口の約2%が本格的に発症するか、何らかの症状を見せるという。当然、日本経済にも大きなマイナスの影響がおよぶ。

そのいっぽう、もし、90%の人が追加ワクチン接種を受けることができ、60歳以上の感染者の90%が十分に治療薬を処方してもらうことができれば、7万2000人まで死者を減らすことができるという。もちろん、こうなるためには、いまや野放し状態にしている中国政府が、さまざまな措置を積極的に取る方向に向かわなければならない。

同じようなシミュレーションは前述のもの以外にもいろいろ提示されている。ジ・エコノミストが紹介しているものをあげておくと、投資会社ウィグラム・キャピタル・アドバイザーは、この冬だけでコロナ死亡者は100万人と計算している。また、データ会社のアフィニティは、中国がゼロコロナ政策を中止すれば、コロナ死亡者は130万にから200万人に上ると推計していた。

すでに指摘したように、中国政府のデータは必ずしも信用のできるものではないので、こうしたシミュレーションにはブレが生まれるどころか、場合によればまったく過少評価になってしまう危険があることは念頭におかなければならない。いずれにせよ、悪くなることはあっても、よくなることはないと思った方がよい(この図版だけft.comより)。

ジ・エコノミスト誌は同日の社説「中国のコロナ感染波は150万人を死なせるかもしれない」でも概要を述べた後、中国政府がいまさらメッセンジャーRNA型のワクチンを大量に輸入するのは、メンツがあって無理だろうが、すべきことは多くあると指摘している。まず、ベッドと医療従事者を増やし、医療システムの崩壊を防いで十分な治療ができるようにすること。また、手に入れやすい解熱剤やコロナ治療薬をできるだけ多く蓄えること。さらには、自国のワクチンでもいいから、高齢者への接種をもっと加速させることなどである。ここにあるのはゼロコロナのような大規模な措置ではないが、地道にやれば効果があることは、これまでの先進国の例で分かっている。

こうした措置はすべてのコロナ感染者を救うことはできないにしても、中国の人口を考えれば「ほんの少しの前進でも、多くの人を救うことができる」とジ・エコノミストは指摘している。ほんの半年前まで、中国政府はゼロコロナが大成功だといっていた。いまや国営放送では「オミクロン株は風邪なみだ」(どこかで何度も聞いたことのある嘘話)との報道を繰り返している。そんなことをする暇があったら、「ほんの少しの前進」をすべきなのだが、権力者のメンツのために、それすら難しいのが現実であるらしい。

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