新型コロナの第8波に備える(1)コロナウイルスは人工的に作られたことが判明?
コロナウイルスの起源説に、また新しい論文が加わった。コロナウイルスを細かく遺伝子分析を行うと、遺伝子工学による縫い合わせのような痕跡が見られるというのだ。これは言うまでもなくコロナウイルスが人工的に作られたものであり、人工ウイルス武漢流出説を裏付けるものだというわけである。
英経済誌ジ・エコノミスト10月22日号は「コロナウイルスには遺伝子操作の痕跡があると主張する新しい論文が登場」を掲載して、その概要と賛成派および反対派の見解を並べている。周知のように、これまでもコロナウイルスは、武漢の研究機関が起源だという説が多く、そのなかでも人工的に作られたものだと強調する説は、中国政府の関与を示唆するので、何度か繰り返し登場してきた。
今回の論文というのは、以前モンタナ州大学にいたアレックス・ウォッシュバーン、デューク大学准教授のアントニウス・ヴァンドンゲン、そしてドイツのヴュルツブルク大学の免疫学者ヴァテンティン・ブリュッテルの3人によってbioRxivに公開されたが、まだ査読を経ていない。この3人のうち、ウォッシュバーンとヴァンドンゲンは、コロナウイルス研究所流出説の支持者であるという。
「この3人は、実験室におけるウイルスの遺伝子工学の新しい手法によって研究を進めてきた。まだ査読が終わっていない論文だが、コロナウイルスはいくつかの遺伝子工学による特徴を備えているという。彼らはコロナウイルスは何種類かの遺伝子工学によって、縫い合わされたように見えるというのである。こうした特徴は、コロナウイルスと類似の自然発生ウイルスと比較することで見つけられたと主張している」
とはいえ、この論文はいまのところ賛否両論というよりは、賛同する研究者より疑問視する研究者のほうが多いようだ。以前もコロナウイルスには遺伝子工学で使われる「切断」技術の痕跡が見られると指摘されたが、それは多くの研究者の賛同は得られなかった。この記事では賛成あるいは是認派の専門家が述べたことを紹介し、それに対して否定あるいは懐疑的な専門家のコメントを添えるという形をとっている。
ロンドン大学教授のフランソワ・バローは「この論文にとくに欠陥のようなものはなかった」と述べているが、シドニー大学のエドワード・ホルムズは「この論文が指摘している特徴というのは自然なもので、すでにコウモリから採取されたウイルスにもあったものだ」と述べているという。
また、ドイツのライプニッツ研究所のシルベストロ・マリオネットは「指摘された特徴は遺伝子工学によって生まれたものかもしれない」と一応肯定的に見ているが、コールドスプリング・ハーバーラボラトリー教授のジャスティン・キニィは「論文は厳しい査読を受ける必要があると思う」と懐疑的な姿勢を見せている。
こうした調子で賛成と反対を対比しているが、そもそもかなり専門的な判断が必要な事項だから、素人が読んでも判断はつきかねる。せめてそれぞれの論者の専門家としてのレベルが分かっていれば、もしかしたら面白い読み物になっているのかもしれない。しかし、漠然とした印象しか得られないので、まだまだ論争以前の段階と考えるほかない(写真は、The Economistより)。
ただし、それはジ・エコノミストも分かっていて、記事の終わり近くで、この新しい視点の加わった論文が正しいとすれば「政治と科学の両分野において、大きな影響を与えることになる」と述べている。私にはこんな段階で同誌が紹介しているのは、科学というよりも政治の分野での影響を予想あるいは期待しているからではないかと思われる。
しかし、同誌は、バイデン大統領が、中国の武漢での調査が進まないことが分かっていながら、さらに本当の原因を調べると宣言したとき、懐疑的な記事を載せていた。調査が中国政府の拒否によってこれ以上進まないなら、出てくる調査もさらなる根拠をもたないものになると、かなりシニックに指摘していたはずである。
仮にウォッシュバーンたちの論文が正しく、いまのコロナウイルスに遺伝子工学による痕跡が専門家たちに認められたとしても、習近平体制が確立した中国政府は、その痕跡は中国の研究所がつけたものではないと突っぱねるだろう。また、たとえその痕跡が中国の研究所に特徴的なものであることが証明されても、中国政府はさらなる現地調査は認めない。ただし、中国の隠蔽は強く印象付けられるこことになるから、バイデン政権が再び中国を牽制するのに用いることは考えられる。
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