新型コロナの第7波に備える(3)なぜ日本がコロナ感染で世界一なのか
なぜ日本がコロナ感染で世界一になってしまったのか。もちろん、さまざまな理由があると思われるが、こういうときこそ慌てないで、冷静にゆっくりとデータを見てみよう。そしていくつかの説についても、冷静に公平に耳をかたむけて考えてみるべきだろう。これだという決定的な答えは得られなくとも、とんでもないデタラメからは逃れられる。
手がかりにするのは、あえて外国紙にしてみたい。フィナンシャルタイムズ紙7月31日付の「日本のワクチン接種をしていない若者がコロナ感染の記録を上昇させる」とのグラフ付の記事を読んでみよう。記事の惹句では「高齢者層のワクチン接種率は高いが、20歳以下の層はそうではない」と書いているところを見ると、どうやら若者のワクチン接種率が低いことが原因だといっているようだ。
まずは、日本の周辺の国や地域と比べて、どれほど日本での感染が急上昇したかを、グラフで見せてくれている。韓国、オーストラリア、台湾、香港と、コロナ感染が始まったころは「優等生」といわれたところも、オミクロン株に移行し、さらにBA.5が登場してからは、急激な感染に見舞われた。そのなかでも、日本がダントツになってしまった。ちょっと残念な気もするが、では、何かスキがなかったかといえば、もちろんあった。
それこそ、若い人たちのワクチン接種が進まなかったことで、こうした元優等生たちと比べて顕著なのは20歳代、30歳代のひとたちの第3回目のワクチン接種率が低いことだ。40歳代も必ずしも高いとはいえない。となれば、こうした顕著な傾向から推測して、日本では高齢者にはワクチン接種を3回おこない、さらにいまや4回目まできたが、若い人たちについては、あまりにも油断していたといえるのではないか。つまり、若い人たちは重症化しないということで後回しにしてきたつけが、いまや回ってきたのではないのか。フィナンシャル紙は次のように述べている。
「こうした20歳より若い人たちの7月の感染は、全体の感染者の30%にものぼっている。これは昨年の8月の19%よりはるかに高い。30歳代の人たちを加えると、なんと新規感染の約半分を占めているのである」(同紙)。残念ながら同紙はこの状況を示すグラフを掲載してくれていないので、ここでは日本の厚労省のホームページから図版引用しておくが、どう考えても若い人たちに集中しているのは間違いがない。
この説はきわめて分かりやすいので、多くの人を納得させてくれるし、私もだいたいのところ、この仮説で考えておいてよいのではないかと思っている。ところが、なかには普通の説に満足できない人がいるもので、聞いたところによると、日本が世界一になってしまったのは、日本がコロナのPCR検査を他の国に比べてどんどんやってしまったので、陽性と判断される人が多くなっただけなのだと主張している人がいるという(しかし、ここのグラフは、フィナンシャル紙が取り上げている日本とその周辺の国・地域が行ったPCR検査の頻度で、1000人当りの数値で比較している。日本がいまだにいかに少ないかが分かるだろう)。
その説によれば、ヨーロッパなどでは、もうコロナに対する関心はなくなっていて、マスクもしなければ検査もしなくなっているので、いまだにコロナに怯えている日本だけが検査をばんばんやって、異常な数値を示しているということらしい。しかし、ヨーロッパでのデータや、先ほどの優等生たちのデータを見れば、ほとんど説得力がないことがわかる。BA.5の感染はヨーロッパが先行したので、終息に向かっている国があるのは分かるが、日本がこのところ検査を急増させたというデータは、まったくないのだ(グラフを見れば、優等生国と比べても、欧米と比べても、日本はBA.5の局面でPCR検査の回数が急増したという事実はないことが分かる)。
もうひとつ、気になる別の仮説もあって、日本ではコロナの感染が広がった初期のころに、感染する人たちが少なかったので、そのために免疫が強くならなかったという説だ。この仮説は欧米でもオミクロン株が登場したころに盛んに唱えられたが、ずいぶん前に私のブログで紹介したように(「スーパー免疫はどれくらい神話でないか;ハイブリッド免疫を正しく理解する」)、自然感染とワクチン接種が組み合わさった「ハイブリッド免疫」がウイルスに対して強くなるという可能性はあるが、感染と接種の順序やどの変異種が強くしてくれるのか、逆に接種が免疫形成を邪魔をするという現象についても、まだ研究の進行中といえる(「新型コロナの第7波に備える(1)オミクロンは「免疫刷り込み」のため感染阻止できない?」を参照のこと)なお、ここで掲示したグラフは、フィナンシャル紙の実数によるグラフを、対100万人の感染者数で作り直したたもので、日本は人口が多いので「世界一」になってしまったが、人口比で比較すれば「アジア・オセアニアいち」ですらない。もちろん、そんなことは絶対数の大きさからすればあまり慰めにならないが、しかし世界一に絶望する必要はないように思う。
前出のフィナンシャルタイムズ紙にも、日本人の専門家でこの説に近い考えをもっている人の言葉が引用されている。「日本における最も大きな感染拡大のファクターは、子供たちの接種がゆっくりとしか進んでないことです」と述べたうえで、「いまの急増については、日本人には第一波のさいに自然感染した人が比較的少ないことも関係あるように思う」と語っている。こうした現象の精緻な解明は、まだこれからだろう(写真ft.comより)。(念のために述べておくが、この「ハイブリッド免疫」説は、コロナ感染が始まったころにまことしやかに流布した「集団免疫」とはまったく別のものである)。
さらに、ヨーロッパはすでにBA.5を克服したという説も、ポルトガルとかデンマークについては言えるが、イタリアとかドイツなどは必ずしも当てはまらないないところがあって、これもまだ簡単には判断できない。まだ、ひとつの仮説にすぎないと考えておいたほうがよさそうだ。この点もこの連載の「新型コロナの第7波に備える(2)オミクロン株BA.5の脅威は国によって異なる?」で、ヨーロッパの感染過程を紹介しておいたので、ぜひ、ご覧いただきたい。
【追記:8月6日】オミクロン株BA.5の急激な感染については、日本人がオミクロン株BA.1とBA.2への感染がきわめて少なかったことを指摘した次の論文があります。ぜひお読みください。「マスクを着けている人が多い日本の新型コロナ感染者数が、世界最多なのはなぜか」(忽那賢志医師)。ここではオミクロン感染の初期に多くの人が感染したアメリカとの比較で、脅威が国によって異なる現象が説明されています(表は追記2を参照のこと)。
【追記2:8月7日】ある日刊紙が「新規陽性者数と1日当たりのコロナ死者数が共に世界ワースト1位(5日時点)」と報じているが、すでに述べたように新規陽性者も人口100万人当たりで見ればそうではないし、また、死者数のほうも「worldmeter」上の表で見れば(赤い四角の中の数値)1位かもしれないが、これはデータが揃っていないものを使っているので比較にならない(赤い四角の部分がまばら)。数値がある程度揃っている「our world in data」でみれば、ここにあるグラフのように、もっとすごいところがいくらもあって、100万人当たりでワースト1位とはとてもいえない。いまのような急変の時期にはデータの基準がバラバラになりがちだ。それぞれの国の政策もバラバラになっているからだ。警告を発したければ、ちゃんと比較できるデータを使うべきだろう。
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