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いまや新型コロナウイルスについての話題は、中心が変異株(変異種)に移りつつある。せっかくワクチンができても変異株には効かないなら脅威はなくならない。また、変異することによって感染力が増したり、症状が重くなるのであれば脅威は高まる。では、いま変異株といわれている新型コロナウイルスは何種類あるかご存知だろうか。
いまのところ(2月27日現在)、4万1000種が確認され、それを特長によって「系統(リネージ、血統とも訳される)」にまとめても880系統あるという。英経済誌ジ・エコノミスト2月27日号の記事「それは家族の問題です」という、意味深長なタイトルの記事は、短いものだがこうした変異株についての意外な話を紹介している。
この記事は基本的なことも書いていてくれている。そもそも、なぜ変異株ができるかだが、それは人間に感染した新型コロナウイルスが、複製をつくる段階で遺伝子配列に変化をきたし、そのなかで存続できたウイルスが変異株として生き残るのだという。そして、この880系統のなかで感染力が増したり、症状が重くなるのはごく一部である。
世界的な研究が進むにつれて、これらの変異株はツリー状の系統図として描かれるようになったのだが、実に興味深いことに、途中から枝分かれして遠い親戚でしかなくなったのに、遺伝子配列から見てきわめて似たものが見られることが分かった。それが伝播によって感染するとは思えない離れた地域に、そっくりな変異株が現れるのだ。
変異株の系統図:The Economistより
たとえば、ケント株は昨年12月より英国で感染が広がっているが、それがなんとブラジルと南アフリカで感染拡大しているものとそっくりなのである。いま互いに移動が禁じられている地域であることから、この2つの変異株はそれぞれが独立して生じたものと考えられているという。こうした現象はダーウィン以来の進化論でいう「自然淘汰」の法則に適っているわけで、変異を続けるなかで酷似したウイルスが登場するのは理にかなっている。
もちろん、これが実は伝播によってもたらされたのではないかと言う疑いもあってしかるべきだ。かつて、構造人類学者のレヴィ=ストロースが、ヨーロッパの「シンデレラ伝説」と北米インディアンの「灰っ子神話」との類似性を指摘して、それぞれ独立して発生したものだと論じた。このとき、あくまで文化伝播にこだわる文化人類学者たちは批判した。とはいえ、ウイルスの場合は遺伝子配列で追跡できるから、はるかに根拠のある議論だろう。
さて、そうした独自の進化によって生じた変異株は感染力が強く、症状も重いというのは憂鬱な話である。しかも、ワクチンの効き目が低下するという説もやはり根強い。しかし、見方を変えれば、新型コロナの進化がある方向に向かっていると分かれば、「製薬会社もこうした変異株を叩くワクチンを開発するのに、すでに開発したものの調整程度で可能になるという希望も生まれてくる」。
ジ・エコノミストはこうした希望も生まれているなかで、もっと難関になりそうなのは、ウイルスの遺伝子配列についての分析を続けて、変異あるいは進化の動きをとらえるためには、膨大な資金がいるということだと指摘している。「世界はこの自然淘汰を追跡し続けるために、そうした資金を投資する必要がある」。
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