新型コロナの第4波に備える(3)世界のコロナ死者数は実は3倍の1千万人である?

新型コロナによる死者は、世界ですでに350万人を超えたといわれる。この数字だけでも十分に巨大な悲劇だといえよう。しかし、この数字はそれぞれの国の発表を合計したものにすぎず、統計的な手法で計算しなおすと、なんと1000万人をすでに超えているというのだ。

英経済誌ジ・エコノミスト5月15日号は、「超過死亡」という人口動態学上の概念を用いて、新型コロナのパンデミックによる死亡者を再計算し、実は710万人~1270万人が亡くなっているはずだという。その中央値が1020万人だというわけだ(この投稿の以下のグラフはすべて同誌)。

すでにこの「超過死亡」という言葉は知られるようになっているが、「人口動態上の変化があった場合、過去のトレンドで予測された数値を超えた死者数」と定義される。ざっといえば、例年の平均死者数を超える分の死者数のことで、たとえばこの10年の死者数が毎年10万人なのに、ある感染症が流行った年が20万人だったとすれば、10万人が超過死亡ということになる。

しかし、この超過死亡は、扱いがなかなか難しいことでも知られている。たとえば、今回のコロナ・パンデミックで南アフリカでは1年間で55000人の死者が出たとされている。ところが、超過死亡の数値は15万8499人であり、同国の公衆衛生当局は、この数値のうち85%から95%はコロナで亡くなったと推測できるという。ということは、13万5000人から15万人強がコロナ死ということになる。

つまり、超過死亡で見ると、統計上のコロナによる死者と比べて、コロナ死は2.5倍から2.9倍だったということになる。この大きな差がどこから出てきたかといえば、統計が実は不備だからだと考えがちである。しかし、たとえば、アメリカの2020年3月上旬から2021年4月中旬の超過死亡を計算すると、同国の公式な死亡者数より7.1%多いことになり、アメリカの統計もかなりいいかげんなものだということになってしまう(もちろん、その可能性もあるが)。

これは他のいくつもの要素が加わったためである可能性が高い。たとえば、英国のコロナ第1波のさいの超過死亡は公式統計上のコロナ死よりも多いが、第2波の場合には超過死亡はコロナ死の公式統計よりも低い数値にとどまっている。これは、おそらく、コロナ対策の効果がコロナを超えて、インフルエンザなどの死亡者を減らしたからだと推測されている。これは同じような現象がフランスでも見られるという(日本でも同様の現象が起きている)。

もちろん、世界をみわたせば、そもそも死者数の時系列による正確なデータがないために、超過死亡の数値を算出することができない場合もあるし、また、あまりにも超過死亡と公式統計との差が大きすぎて、統計学的に判断がつきかねることも多い。たとえば、OECDの超過死亡は公式死亡者統計の1.17倍だが、サハラ以南のアフリカ諸国の場合は、これが14倍にもなってしまい、比較する意味があるのかすら分からなくなる。

しかし、さまざまな要素を細かに丁寧に比較していくことで、なぜ大きな違いが生まれるのかを推測することは可能になると同誌はいう。たとえば、今回のコロナ・パンデミックにおいて、悲惨な状態が生まれたのは、一見、公衆衛生の環境が整っているヨーロッパ諸国だった。いっぽう、あきらかに公衆衛生の環境が悪いはずの貧困国のほうは、感染者数や死者数からみて、ずっとコロナに対して抵抗力を示しているように見える。

この場合、何がこのような相違を生み出したかを考えるための要素は年齢である。コロナ感染は高齢者の場合に重症化しやすく、若者の場合には感染しても比較的重症化する割合は低い。したがって、高齢化が進んでいるヨーロッパ諸国が重症化と死者数において多くの惨状を生み、いっぽう、若者の人口比が大きい貧困国のほうが、コロナ感染に対して抵抗力があったことを読み取るのは難しくない。

こうした人口構成上の問題とは思えないのに、他の地域と比べて異様に超過死亡が公式コロナ死統計より多くなる国もある。その典型的なケースがロシアで、同国は超過死亡が公式コロナ死者数の5.1倍にもなり、その理由を見出すのはかなり困難なものとなった。ジ・エコノミスト誌は、この現象を生み出したものを、「政治のシステムとメディアの自由度の低さ」に求めている。

ここに取り上げたのは、そうした超過死亡と公式統計との差を大きく動かす要素のうちほんの数例だが、同誌は多くの要素をひとつひとつ丁寧に細かく分析していって、前出のような世界全体でのコロナ・パンデミック下での超過死亡推計を提示している。もちろん、これが絶対的なものではないにしても、ひとつの目安として役立つことは間違いない。

これまでも、超過死亡で見た場合に、政府が発表した公式な数値と違うがあることは、知られてきた。途上国の場合には公式データそのものの信頼度に問題があり、超過死亡が著しく多い傾向があった。いっぽう、先進国の場合、とくに社会福祉が完備した国は、死者が高齢者に集中するので、1年くらいの期間で見たときには、超過死亡がマイナスになる例が見られる。これは感染して死亡した人たちの平均余命が短かったことが、原因のひとつと考えられるわけである。(ここから、「当然死ぬべき人が死んだだけ」といった結論を導くか否かは別の問題である)

似たような試みはこれまでもあったが、ジ・エコノミストによれば、ここまで細かく丁寧に世界の超過死亡を推計したのは初めてだと胸をはっている。たとえば、同誌はこれまでの例としてワシントン大学で試みられた推計を紹介していて、この推計で日本のコロナによる死者を計算すると10万人が亡くなったことになり、現実の1万1000人(当時)とは程遠い数値が出てきてしまったという。

とはいえ、いまの第4波の急激な拡大と、遅々として進まないワクチン接種(およびワクチン確保)を考えると、ひょっとするとこの数字が現実のものになるかもしれないと、一瞬、私の頭をよぎったというのも本当のことである。

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