ウクライナ戦争と経済(36)ロシアへの密貿易ルートが戦争を継続させる

ロシア軍によるウクライナ侵攻から1年が経過したが、報道によれば「戦闘は継続される」というのがいまの見通しらしい。なぜ、継続してしまうのか。そのひとつの要因がロシアに対する「密貿易」が盛んなことである。しかも、その商品をロシアの周辺国へ送り込んでいるのは、実はEUおよび同盟国なのだ。

英経済紙フィナンシャルタイムズ2月23日付は「西側はロシアの周辺国への輸出が増えていることから、経済制裁は回避されている可能性があることを認めている」という記事をグラフ付きで掲載した。要するに中央アジアやコーカサスの国々を経由して、ロシアへ多くの物品が入っているということだ。

フィナンシャル紙は、EUの経済制裁特使のディヴィッド・オサリバンは、同紙のインタビューに対して、ロシアの周辺国への貿易が急激に上昇していることから、制裁の対象となっている商品が裏口からロシアに入っているのではないかとの疑いがあると語ったと報じている。オサリバンは具体的な国名はあげていないが、「EUからのロシアへの貿易の流れが異常な急伸を見せており、ことに同国周辺の3カ国において甚だしい」という。

この具体的な国名は、ヨーロッパ復興開発銀行のデータをみれば一目瞭然で、フィナンシャル紙はグラフにして見せてくれている。アルメニア、カザフスタン、そしてキルギルスタンであって、ジョージアがそれに次ぐ。このところの急伸はウクライナ戦争と無関係だというには、あまりにもあからさまな現象だというべきだろう。EUだけでなくアメリカや英国の情報機関も、この仮説に対しては肯定的だとオサリバンは述べている。

EUおよび同盟国側の懸念に対して、アルメニア政府は「抜け道を通じての貿易は極力阻止しようとしている」とコメントしているという。いっぽう、カザフスタン政府はノーコメントのままらしい。他にもこれまでもロシアへの輸出が多かったトルコに至っては、(すでにロシア軍への機械や電子機器の供与が明らかだが)ロシア周辺国への輸出が昨年5月から7月の間、2017から19年の同時期と比べて、なんと97%もの増加を示している。

では、どんな商品が迂回輸出されているのだろうか。以前、ウクライナ国内で捕獲されたロシア製の武器には、家電用のICチップが使用されていることが話題になった。そのことを裏付けるように、ヨーロッパ復興開発銀行のデータでは、いわゆる白物と呼ばれる家電製品がEUからロシア周辺国へと輸出され、おそらくロシアへと流れていると思われる。

中国もこうした迂回貿易に加わっていると見られ、ことに「これらの周辺国への半導体の輸出量が急伸している」と、シンクタンクのシルベラード・ポリシー・アクセラレーターは指摘している」。中国に関してはドイツ誌の『シュピーゲル』が、ロシアにドローンを供与していることを指摘しているが、注目すべきはドローンを製造するための工作機械なども送り込んでいることで、これが本当ならロシア国内でのドローン製造が早晩可能になるだろうと見られている。

「アメリカのEU大使のマーク・ギテンスタインは、国名はあげていないが、迂回路を通じての輸入が継続される『ヘイヴン』(タックス・ヘイヴンの転用で制裁回避地)が存在していると指摘している」。おそらく、発覚したものだけにはとどまらない「ヘイヴン」貿易の広がりが、ウクライナにいかに欧米から武器と資金が入っていても、自分たちはこれからも戦えるというロシアの危うい心理を支えているわけである。

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