仮想通貨の黄昏(16)いよいよトランプ大統領の煽りの効果が落ちてきた【増補】

またまた、ビットコインの価格が下落して、大騒ぎになっている。そもそも最初から値段のないものの値段が下がったからと言って、いまさら騒ぐ話ではない。しかし、それがいまのトランプ政権の命脈と関係があるとすれば、やはり簡単に無視するわけにはいかない。そしてまた、得をするのは少数の金持ちであり、損をするのは大勢の貧乏人となる仮想通貨の構造について、もう一度確認しておきたい。(【増補】の部分は文末)

トランプ大統領は仮想通貨の価格上昇を煽って、アメリカ経済の好景気を印象付けようとしてきた。そのことでトランプ政権の安定性と仮想通貨の上昇とは強い相関関係が生まれた。いま、トランプはやりたい放題だが、仮想通貨は政権が生まれたころからすると下落している。トランプによる煽りの効果が薄れているのだ。そして、これが続けばさらにトランプ政権の信頼性は下落し、そして仮想通貨への熱狂も冷めていくだろう。

「昨年のトランプに大統領選勝利によって生まれた仮想通貨への熱狂が衰えたため、ここ数週間で世界の仮想通貨市場から8000億ドルが消えてしまった。ビットコインの価格は水曜日に3.6%も下落して85600ドルとなり、過去1カ月間の損失は15%に達した。他の仮想通貨もリスク資産の広範囲な売りに巻き込まれつつあったとき、最近、史上最大の仮想通貨の盗難が起こったため、さらなる巨大な損失が生まれているのだ」(フィナンシャルタイムズ2月27日付)

さらに多くのデータが報じられている。ブルームバーグによれば、投資家は火曜日にビットコイン上場投資信託(ETF)から約10億ドルを引き上げたようだ。同紙によればこれは、昨年末に仮想通貨価格を最高値に押し上げたETFという手段からの急激な資金引揚であることを意味している。前出フィナンシャル紙は「トランプ政権の仮想通貨スタンスへの期待が、いま再調整されている」との見方が生まれているという。

こうした再調整について、さらに注目を浴びたのは、トランプ大統領がこの1月にいわゆるミームコインを始め、その仮想通貨の下落は高値を呼んでいたが、いまやそこから83%もの下落を示していることだ。これは「トランプがミームコインを投げ捨てたからだ」とベンチャーキャピタル経営者のマイケル・デンプシーは語り、「市場を破壊す行為」だと批判している。つまり、トランプの軽々しい行為が、育っていたミームコイン市場が壊滅的になりそうだというわけだ。

同じようなことをして市場関係者に顰蹙を買っているのは、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領で、彼はトランプ信奉者らしいのだが、同じようにミームコインを推進して、この2月初めに暴落させてしまっている。ついでに述べておけば、トランプの妻のメラニアもミームコインを立ち上げたが、これなど金融資産についての「危険なお遊び」として見られていたが、やはり下落して市場を冷やす一役を担っているようだ。

前述の仮想通貨の盗難というのは、いうまでもなく仮想通貨としては規模で第2位のイーサリアムのことで、15億ドル分が同貨幣の取引所から盗まれて、その影響で過去1カ月で価格が23%も下落している。前出のデンプシーは、そもそもいまの熱狂は「トランプに対する過大評価だ」と断じている。

「ビットコインETFからの巨大流出は、ウィスコンシン州やミシガン州の年金制度当局など、伝統的な大手投資者がビットコインに投資先を変えたからで、その額は1日当たりの最高値である6億7100万ドルに上ったという事情もある。しかし、そのビットコイン本体が下落したことで巨額の損失を出すことになった。スタンダードチャーター銀行のジェフ・ケンドリックは「アメリカ大統領選以降のビットコインETFの平均購入価格は1コイン当たり97000ドルと推定され、この期間中の購入者は合計で13億ドルの損失を出したことになります」。

巨大な損失とはいえ、ビットコインの総額からすれば大したことはないかもしれない。ビットコインが値崩れを起こしても、しばらくすると復活するのは、ビットコインへの投資家の多くが巨額のビットコインをもっており、しかもその多くが安価な時代に購入しているので、いまの高値から多少下落しても損失が相対的に少ないからだ。しかし、新規に投資を始めた人間にとっては高値買いの底値売りになるから打撃は大きい。

上の表はちょっと分かりにくいのだが、ビットコイン保有者の金額上位者0.03%の人たちが全体の60.62%を保有しており、上位者1.82%でなんと92.99%に達してしまっていることを示している。しばしば、ねずみ講などと言われるゆえんである。もちろん、構造的には世の中のねずみ講とは異なるが、「上位の者が下位の者から収奪している」という点で似ているというわけである。上位の者の多くは安価に入手しており、下位の者は高価になってから入手している。したがって、下落が来たとき損をするのは資金力がない初心者たちである。

さらにこれほど危険な資産をほとんど野放しにしているのは、金融機関が野心的な投資家たちの資産運用のポートフォリオに繰り入れて手数料を稼ぐことができるからであり、また、前出のようにリターンが大きいものを好む年金運用会社などが、高リスク資産に手を出してしまうからだ。何度も書いているが、若い貧乏人がなけなしの金をつかって、いちかばちかで投資対象とするような類のものではない。

多少下落しただけで、大げさに騒ぐようになってきたが、それは関係者がいまの価格が異常であることを知っているからだ。また、ちょっと落ちると金融筋から「これが底値だ」とかのメッセージが多く流されるが、いまの長高値をなんとかしばらく続けたいからだろう。しかし、根拠のない仮想通貨は理論上はゼロになってもおかしくない。今回、持ち直してもトランプ政権の信用が失われるなかで、ビットコインを始めとする仮想通貨の価値も下がっていく。それはトランプが自ら煽って仮想通貨の価格を押し上げたときからの運命といってよい。

【増補】ビットコインの価格はまだ底値に到達できずにいる。ブルームバーグ2月28日付は次のように報じている。「暗号資産(仮想通貨)ビットコインの下げが加速している。6週間足らず前に着けた最高値から25%下落した。昨年の米大統領選でドナルド・トランプ氏が勝利した後の取引が反転している」。

もちろん、これでビットコインが滅ぶわけではないし、下落率が最高記録を達成したわけではない。しかし、トランプ人気と接続されたビットコインおよび仮想通貨は、もはやトランプ政権の評価と相関関係のみならず、因果関係すらの見られるようになっている。まあ、次のように言っておくのが関係者の当面の妥当なコメントというべきだろう。

「暗号資産カストディー会社ビットゴーのAPAC店頭取引ディレクター、シュテファン・フォンヘーニッシュ氏は『マクロ環境を考えれば、現在のような状況になっても驚きではない』と指摘。トレーダーらは、仮想通貨を支持していると広く考えられているトランプ氏がビットコインの備蓄など具体的な措置を打ち出すのをなお待っていると述べた」

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