中国経済は回復できるのか(2)巨額の国債を発行しても蟻地獄からは出られない

中国は巨額の国債発行でいまの経済危機を脱出しようとしている。それは日本の不動産バブル崩壊などでも行われたことだ。しかし、中国の不動産バブルは同じような財政政策を続けることで拡大し、そして結果として大きく派手に弾けた。はたして、この方法がうまくいくのだろうか。そのことを考える前に、まず、いま中国の当局がやろうとしている政策について、もう少し詳しく見てみよう。

英経済紙フィナンシャルタイムズ5月13日号は「経済を活性化するために総額1400億ドルの国債の鉄砲を撃とうとしている」を掲載して、その概要を伝えている。「中国当局は、北京政府が財務支出によって経済を刺激するために、1兆人民元(1400億ドル)の長期国債を発行しようとしている。中国人民銀行が金融ブローカーたちに、国債の最初の発行分の価格設定について相談していると、同業者の2人が語っている」というわけである。

中国政府はこれまでも経済停滞を脱出するため、同様の巨額国債発行を行ってきた。2020年にも、コロナ禍の最中のことだったが、このパンデミックを抑え込むと同時に、インフラへの投資によって経済を活性化させるという狙いのもとに、1兆人民元の発行が行われている。「今回の国債発行はより長期の国債が発行されるといわれ、地方政府の負債を緩和するとともに、長期の経済計画に役立てようというものらしい」。

さらに過去の例を挙げれば、1998年には国営銀行の資本増強のために、また、2007年にも国家富裕ファンドとして、巨額の国債を発行しており、同種の財政政策の試みとしては、今回が4回目といえる。これらの巨額発行が通常の国債発行と異なる点は、いずれも「特定の目的をもっている」ことにある。

中国の長期国債市場の特色としては、基本的に償還されるまで保持されるケースが多いので、金融市場に流動性を加える(通貨の流通量を上げる)効果があるとされる。今回の試みでは「中国の当局としては、不動産やインフラへの投資によって経済成長を加速するというモデルから脱却しようとしている。これまでのモデルは、結局のところ、地方政府が負債を抱えてバブルを拡大させるだけ結果となった」。

たとえば、この試みを肯定的にとらえているのが、香港に拠点をおくCSPIのジェイムソン・ツァオで、「いま中国はその投資構造を変える決定的な時点にある」と述べている。「国際的基準で比較すれば、中国にはまだ国債発行を続ける余地がある。可能性としては、これから5年から10年の間に、政府は数兆元の国債発行をして、国内の投資を刺激することができるだろう」と語っている。

いっぽう、国債発行にかかわっていながら、中国人民銀行は、長期国債の集中的な売買が生じることについて警告している。大量の国債が売買されるなかで、地方の銀行などが激しい金利の変動についていけずに、巨額の負債を抱え込むリスクを生み出す。その結果、急激なインフレとFRBの金利引き上げに翻弄された、アメリカのシリコンバレー銀行が破綻したような危険が生まれるというわけだ。

こうした国債発行の限界という問題や、債権市場の激しい変動という問題も大きいかもしれないが、わたしはむしろ膨大な金額の国債を発行し、財政支出によってバブル崩壊後の経済を立て直そうとするやり方が、本当に有効なのかについて気になる。それは当面は何らかの効果を生むのは分かっているが、潜在的に予想以上の負債が存在した場合、巨額な財政支出はあっという間にその負債を埋めるのに吸い込まれてしまう。

日本の場合、バブル崩壊後に繰り返し経済計画という名前の財政巨額支出が繰り返されたが、結局、「失われた30年」になっていったのは、こうした潜在的な、あるいはバブル崩壊後にずるずると新たに生じる負債が、刺激策としての財政支出を吸い込んでしまったからである。それは、たとえば、ゼネコン、子ゼネコン、孫ゼネコンのような重層的な構造をもっている産業の場合に典型的に表れた。

親である巨大ゼネコンは、政治力をつかって財政支出による仕事をとってくるが、それはほとんどが子会社、孫会社に丸投げされる。ただし、それは親ゼネコンが生き残るための利ザヤをとった残りの金額で回されるので、子会社、孫会社は赤字を覚悟で引き受ける。そうしないと、次の仕事が来ないからだ。なかなか景気が回復されないなかで、このパターンが繰り返された結果、地方の子会社や孫会社の多くが次々に倒産して、生き残ったのは親会社だけだったということになる。

これと類似の現象だが、バランスシート不況の恐るべき魔力で、景気が回復してきても、バランスシートに多くの不良債権を抱えた銀行は、新しい投資やプランに向かうことができない。なんとか不良債権を処理しつつ存続はしているのだが、経済が回復するのには貢献できない。そのうちにまた不況が来ると、こらえきれずに破綻してしまう。このバターンが日本では繰り返されたが、中国の場合はどこまで回避できるだろうか。

こうした蟻地獄から抜けだすには公的な機関が銀行の負債を購入していくしかないのだが、中国の場合はあまりこのプロセスが進んでいないという。積極的に見える経済政策は採用されやすいが、後ろ向きに見える負債および不良債権買取策は、消極的に見えてしまい、独裁国家では注目されないのかもしれない。あるいは、それが分かっていても、中国の場合には負債が大きすぎて、部分的な買い取りなどでは解決がつかないのかもしれない。

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