新型コロナの第5波に備える(1)コロナ後遺症の現実をデータで見る

新型コロナとの戦いは続いているが、たとえコロナから回復しても、体調の不良が続く「ロング・コヴィッド(コロナ後遺症)」が少なくないことが指摘されてきた。たしかに、コロナ禍での被害としては死亡率の増加や経済の停滞が中心的だが、コロナ後遺症もけっして無視できないものとして議論されるようになったのである。

しかし、コロナ後遺症といっても、その定義はあいまいなままにとどまり、イライラ感、息切れ、動悸、認識不全などが指摘されてきたが、どれくらいの割合で、どれほどの期間続くのかということが、いまひとつわかりにくかった。コロナ後遺症というのは、コロナ禍を過度に恐れる人たちの妄想かプロパガンダだと思っている人もいるに違いない。

英経済誌ジ・エコノミスト7月17日号は「装着端末を使った新しい研究が、コロナ後遺症の輪郭を明らかにするのに貢献する」との記事を掲載して、いわゆるウエアラブル・デバイス(装着端末)を使った追跡調査に基づく、コロナ後遺症の研究を紹介している。この研究はあるヘルスケア会社が試みたもので、38000人が参加して最終的には875人のサンプル(陽性が234,陰性が641)から得られたデータに基づいている(以下のグラフはThe Economistより)。

 青色の線が陽性となった人の心拍数増加回数。空色が陰性の増加回数

「コロナ感染はきわめて破壊的なものである。症状があってもPCR検査で陰性だった患者の場合には、検査後に睡眠時間は増えて、症状も急激には進まない。変化も穏やかでわずかなものである。ところが、検査で陽性だった人たちの場合には、その被害は2.5倍も大きく、1カ月も続くのである」

もっとも顕著な例としては心拍数の上昇が挙げられる。検査で陽性となった86%の人は平均して心拍数が1分に1.4回上昇し、それから2.9回低下する。感染者が回復するにつれて、ふたたび心拍数は上昇し、最初にくらべて平均0.5回ほど多くなる。彼らの心拍数が元に戻るのは約65日を経過してからである。

左グラフは眠りの深さの比較、右グラフは回復の度合いの比較

しかし、陽性となった残りの14%の人は、もっと大きな変化に直面することになる。心拍数が多くなり、次に少なくなり、そしてまた多くなるというパターンは同じだが、そのレベルはずっと深刻なものだ。多くなったときのピークは平均して1分間に8.8回も増加し、しかも、70日経過してからも、彼らの心拍数は感染する以前より、平均5.4回多くなった状態のままになってしまう。

心拍数が上昇すれば、血中酸素の不足、軽い頭痛、息切れの症状が生まれて、もちろん、それだけで健康を損なうだけでなく、他の病気との合併症を引き起こし、さらに体調を害する危険が生じてくる。単に心拍数が上がるという事態にとどまらないのだ。しかも、それがいまや、ワクチン接種によってかなりの程度まで避けられるなかで、怪しげな風説や間違った論評に影響されて接種を受けずに、こうした症状で苦しむのは馬鹿げたことだろう。

  陽性と陰性それぞれの症状の比較

「多くの若者たちは、自分はリスクが低いので、ワクチン接種など必要がないと考えがちである。しかし、若者は上昇してしまった心拍数を、治療を受けて引き下げる機会をもたないままにしてしまう危険がある。より正確にコロナ後遺症について知って、誤解にみちた接種への懐疑をなくすべきだろう」

日本ではワクチンに対する反感が比較的強いこともあって憂慮されていたが、実際にコロナワクチン接種が始まると、むしろ、接種したいと希望する人が殺到したので、関係者は胸をなでおろしたといわれる。ところが、最近になって接種を受けていない若者のなかに、怪しげなワクチン脅威論やワクチン陰謀論が広がる傾向が生まれている。

そのなかには、深刻なワクチンへの懐疑というよりは、単なる奇異で意外な説への興味でアプローチする人が多いと思われるが、これが何らかの形でムーブメントとなったときの困難さは想像にかたくない。以前も、ある種のワクチンへの根拠のない恐怖が広がったとき、厚生労働省は正面から対決することなく、接種を推奨するのをやめたことがある。コロナについては、多少の摩擦があっても、正確な情報を提示し続けるという姿勢が強く求められる。

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