今のバブルはいつ崩壊するか(11)パニックへの加速モーメント

いまも日経平均株価が続落したというニュースを見たばかりだ。この傾向はおそらく新型コロナウイルス肺炎の蔓延が続くかぎり解消されないだろう。ただし、株式の崩壊(クラッシュ)と恐慌(パニック)、景気後退(リセッション)、不況(デプレッション)は区別しなくてはならない。目の前の現実を正しく認識するためには、厳密になることが必要なのだ。

クラッシュがすなわちデプレッションではない。いちばん分かりやすいのが1987年のブラック・マンデーで、ニューヨーク市場で歴史的大暴落(クラッシュ)が起こったが、それが1929年のような大恐慌に発展することはなかった。

1998年にはロシアのデフォルトが、二人のノーベル経済学賞受賞者を要するヘッジファンドLTCMの破綻を生み出し、金融界はパニックの様相を呈したが、FRB議長のグリーンスパンは大手金融機関に奉加帳を回して(救済資金の要請をして)、当面の危機は切り抜けたので、景気後退や不況になることは避けられた。(このとき、協力を拒否したリーマンブラザーズは、2008年の危機のさい、いのいちばんに破綻に追い込まれたという説がある。)

いま起こっているのは株価下落(クラッシュ)であり、それはこれから中国やアメリカでさらなる景気後退(リセッション)が起こるだろうという予想によって、恐慌(パニック)に陥ろうとしているわけであり、それが大恐慌(グレート・デプレッション)になるか否かは不明である(ちなみに、このグレート・デプレッションは大恐慌と訳されてきたが、恐慌をパニック、不況をデプレッションと訳す習慣を守るなら大不況としなければならない)。

もちろん、ここまでの大きな株価下落が起こるというのは、背景に過剰な株高や過剰な債務があったからで、そのことは、これまでこの連載で指摘してきた。いまはこうした要素が、どのように危機のなかで展開し、被害を拡大するかを見るべき時なのである。

今回の続落がさらなる株価下落(クラッシュ)を呼び込んで、恐慌(パニック)を生み出し、それが新型コロナウイルスによるパニックと連動することで、景気後退や不況へと繋がっていく確率はかなり高くなっているが、それには別の要素が加わることが条件となる。

たとえば、1990年の東京株式取引所でのクラッシュが「失われた20年」に転落していくことになった過程には、まず、前年12月の三重野康総裁の就任と金融引き締め策の断行、90年3月の大蔵省による総量規制が大きく影響しており、同年8月の湾岸戦争の開始は心理的に将来への期待を下落させるに十分だった。

また、2000年のITバブル崩壊を生み出したのは、同年4月のナスダック暴落だけが決定打だったとはいえない。同年12月のエンロン事件(不正が暴露された)や翌年のワールドコム破綻といった、「IT革命」の英雄たちへの幻滅が必要だった。そして、9月の同時多発テロの勃発で決定的となったといえる。

さらに、2008年のリーマンショックに至るまでには、前年7月のサブプライム問題の顕在化、08年5月の中国四川省の大地震、急速に進んだ原油や穀物の価格高騰、そして8月のロシア軍グルジア侵攻によって、世界の市場心理は悪化して、パニックを生み出し、次々と金融機関が破綻していくことがそれを加速して、不況へと繋がっていった。

つまり、株価暴落だけでなく政府の政策変更や紛争(戦争)、そしてまた、コンテイジョン(伝染)によって広がる不安心理が、世界的パニックとなって初めて、さらなるクラッシュが続いて、リセッション、デプレッションへと「成長」していくとみてよい。その意味でも、今回のクラッシュは次のショックの有無が、将来を大きく左右するといえるわけだ。(このテーマは加筆あるいは章を改めて書くことにする)

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今のバブルはいつ崩壊するか(11)パニックへの加速モーメント” に対して1件のコメントがあります。

  1. 張シュウ より:

    投資をしていて、バブルがいつ崩壊するか調べていたら、
    こちらのホームページにたどり着きました。

    毎日相場を見ていると、PBRやらトレンドやらサポートラインやら、
    奇々怪々、そもそも存在するかしないかわからないものを根拠にした分析が多く、
    頭がおかしくなりそうでした。

    こちらのホームページの内容を読んでいると、
    本来「考える」とはこういうことだ、ということを思い出すことができ、
    どうにか正気に戻ることができます。

    これからも無理せず、急がず、本質を教えてくれる記事をぜひお書きください。

    1. komodon-z より:

      ありがとうございます。
      本来、あわて者ゆえ、ゆっくり考えることを課題としております。
      今後も、「無理せず、急がず、本質を」を心に刻んで書いてゆきます。
      東谷

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