破裂に向かうAIバブル(16)投資に対しあまりにも収益が上がらない現実

AIがバブルだなんてとんでもない、という人はまだいる。AI関連株価だって上がっているじゃないか、というわけだ。それに、いまやビジネスや生活にAIは大きく入り込んでいる、というのである。本当なのだろうか。まず、データを見てみよう。もちろん、完全なものなどないが、本当にバブルじゃないのか。株価はいまも上がっているのか。ビジネスも生活もAIが支配しているのか。

英経済誌ジ・エコノミスト11月25日付は「投資家はAIの利用が急増すると期待しているが、それは実現していない」という身も蓋もないタイトルの記事を掲載した。同誌の調査によると、急伸してきた「職場でAIを活用している」という人の割合は、意外なことに下がる兆候を見せ始め、いまは11%で前後しているという。250人以上を雇用する大企業では、とくにAIの導入が急減しているというデータもあるらしい。いったいAIはどうなっているんだろう。

現在、2030年までに大手テクノロジー企業は、AIサービルを提供するインフラに5兆ドルを費やすと予想されている。JPモルガン・チェース銀行の調査によると、こうしたAI投資が十分に価値のあるものになるには、いまの時点で年間約500億ドルの収益が得られているが、これが年間6500億ドルまで上昇しなければならないという。私生活でAIに多くのお金をつぎ込んでいる人でも、おそらく最終的には期待されたものの、ほんの少ししか購入しないだろう。ということは、必要な資金は企業が払う必要があることになる。

そんな馬鹿な、と思っている人がいても、少しも恥ずかしい話ではない。実は、経済学者たちも、さまざまなデータを前にして首を傾げているのだ。「AIを活用している」という言葉そのものが、何を意味しているのか曖昧だからではないのかとの説がある。たとえば国勢調査などではあまりに厳密に定義しているので、現実がかえって捉えにくくなるというというわけだ。そのいっぽう、AIを推進する側の調査などでは、逆にちょっと触ったていどでも「AIを使用している」ことになってしまうのかもしれない。

「しかし、研究機関の非公式調査ですらも、企業におけるAI導入の停滞を示唆している。スタンフォード大学のジョン・ハートリーたちの調査によると、職場で生成AIを使用しているアメリカ人は、今年9月の時点で37%。これなら納得できると思いきや、実は、同じ調査で今年6月には46%の人がAIを使用していたのだ。セントルイス連銀の追跡調査では2024年8月は12.1%だったが、1年後には12.6%まで上昇したが、いまのAIブームのなかでは意外に低い数値というべきだろう。

この不安定と低調はAIそのものではなく、いまの不安定な経済状況から来たとする説は有力である。トランプの関税政策、それに付随する貿易戦争、移民の急減、そして金利見通しの不安定さといったものである。また、歴史を振り返れば、技術革新による経済への影響は、必ずしも穏やかな連続性を示すものではないとの説もある。たとえば、アメリカの家庭におけるコンピューター使用を思い出せば、1980年代後半にはスピードは鈍化していたが、1990年代になると急激に普及したのは知られている。

とはいえ、AIの有用性に対する期待が低下していることは大きい。つまり、現在のAI活用モデルでは、どうもAI投資に対するリターンが期待外れに終わりそうだとの予想が強まっている。ジ・エコノミスト誌は同様の否定的な予想に繋がる根拠を3つあげている。まず、AIに積極的に取り組んできた大企業の株価が思わしくない。「少なくとも今のところ、投資家たちはAI導入が収益性の向上や企業そのものの成長につながるとは思っていないようなのである」。

次に、コンサルタント会社などによるアンケート結果が否定的になってきた。たとえばコンサルタント会社デトロイトと香港大学の研究センターによる経営幹部を対象としたアンケート調査では、AI活用による収益が期待を下回ったと答えた企業は45%を上回り、期待を超えたと答えた企業は10%に過ぎなかった。また、マッキンゼーの調査でも、ほとんどの会社組織において、AIの活用は企業全体の利益に、まだ大きな影響を与えていないと考えているという。

最後に、経済学の研究だが、これは「少なくとも、短期的には、AI導入は予期せぬ形で生産性を低下させる危険性がある」という驚くべき予測をしているのだ。スタンフォード大学のエリック・ブリニョルフソンはこの現象を「生産性Jカーブ」と呼んでおり、AIに特有の問題が隠れているのではないかと指摘している。これは実はパソコンブームやITブームでも見られたことで、たとえば中小零細企業が無理をしてパソコンを導入したところ、生産性が落ちたという例は少なくなかった。これはパソコンの導入の際に、高齢だが働き者の社員を辞めさせたとか、パソコンの能力への根本的な無理解によるものもあった。

こうした「生産性Jカーブ」は、これまでもあった技術革新に伴うものと同類の現象ならば、そのうち克服できるだろう。「しかし、たとえそうなったとしても、いまのAI停滞はAIの経済的効果が現在の投資ブームが示唆するより、遅く不均一でより大きなコストを伴うことを示唆している。(なんせパソコンなどに比べて複雑で投入金額が大きいのだ)AI導入が急速に加速するまでは、5兆ドルのAI設備投資を正当化するのに十分な収益を依然として達成できない可能性は高い」。

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