破裂に向かうAIバブル(10)高騰する株価を煽るトランプの失策が怖い
強気相場はブルで弱気相場がベア。それぞれ牛の角が上向きで熊の爪が下向きであることからこういうのはよく知られている。では、いまアメリカはどうなのか。いうまでもなくブルなのだが、それがちょっと過剰なのではないか思えるところまで来ている。いうまでもなくトランプ大統領が煽りに煽っているからだが、それも新政権への支持を確保するためのレベルを超えて、すでに危険水域だと経済紙などでも指摘するようになっている。
英経済紙フィナンシャル・タイムズ1月25日付は、同紙の長期予測コラムニスト、ケイティ・マーティンの「市場のアニマル・スピリットは過剰の危険を冒している」を掲載した。「いま投資家は、ほんの少しばかり情熱を控えめにするのによい時期だろう。今年はブル派が優勢なかたちで始まった。すでに米国株は約4%も上昇しているし、過去10年間で最も好調な最初の月を経験している」。
トランプ大統領が復帰したことにより、企業の幹部たちは「アニマル・スピリット(経済を動かす血気)」の新しい時代がやってきたと喜んでいると、強気の投資家でかつてはソロスの元で才能を発揮したスタン・ドラッケンミラーも証言している。米国の銀行は「それ行け気分」にあるとJ・P・モルガンの上級幹部たちも発言し、仮想通貨のサポーターたちは「いまや仮想通貨はバナナ・ゾーン(急伸)の直前にある」と述べている。
それにたいして、一部の市場ウォッチャーは、神経質になる者もでてきたとマーティンはいう。その理由というのが不安定になっている世界の国債市場だ。これは必ずしも悪いことではなく、国債市場の不安定は経済成長が続いていることを意味するが、同時に、インフレが今後も続くと予想され、FRBは金利を引き下げるのに苦労をすることになるということも意味している。そして、それはまた、資産運用会社に国債を買わせるには、国債の利回りをもう少し高くせざるをえないことをも意味するわけである。
「ここで肝心なのは、債券投資家たちが誤った判断をしてしまい、その結果生じた債券の価格下落が債券の利回りを上げたという事実である。最も重要なベンチマークである10年ものの米国国債の利回りは、いまや4.5%を上回っている。これは1月中旬以来の国債価格回復を意味しているわけだが、それでもなお、株式を買い増す根拠を弱めるには十分な高さだといえる(つまり、株式が売られる根拠たりうるというわけだ)」
マーティンによれば、フィナンシャル紙が報じているように、米国株式は債券に対していまやこの30年間でもっとも高いレベルに達している。利益と比較した予想利益が無リスク金利をはるかに下回っているいまの状況では、ますます株式へのさらなる投資を正当化することは難しくなっているとマーティンは指摘している。また、ゴールドマン・サックスのピーター・オッペンハイマーは「これまで株式は債券との競争をほとんど無視してきた」と語っているが、それはあまりにも経済成長への楽観が強かったからで、株式価格は債券の利回りの急上昇に対してはむしろ脆弱になっている恐れがあるというのだ。
「大きな試金石は、米国の政府金利が5%に達するかどうかだろう。その時点で、つぎの2つのどちらかが起こるとみてよい。債券を嫌っていた投資家が、割安になった債券に飛びついて、債券の(価格を上げ)利回りを下げてしまうか、あるいは、債券の売りが激化してしまい、すべての資産家が痛みを覚えるようになるかである。わたし(マーティン)は、前者のほうではないかと思っている」
まだ、そのレベルには達していないが、モルガン・スタンレーの投資責任者リサ・シャレットは先週「依然として危機的レベルにある」と述べている。「成長の若干の鈍化と金利の若干の上昇が、市場にとって致命的な組み合わせとなってしまう状況に、わたしたちはまさに近づいている」。その結果として、シャレットがいうには、「株式全般、とくに集中度が高くハイテク銘柄への依存度が高いアメリカ株式市場が、これまでの2年間に見せた目覚ましい上昇を続けることができるかについては、懐疑的にならざるをえない」。
もうひとつ、マーティンが挙げている注意すべき兆候は、「個人投資家の間に見られる楽観度の高さ」であるという。米国個人投資家協会は、最新の月次調査で、投資センチメントが「急上昇」したと報告している。さらに同協会によれば、今後6カ月間に株価が上昇するという期待は、今月までで約18%も上昇している。「いまほどのレベルの高さになると、空気は薄くなっている(新たに活気を生み出す要素は少なくなっている)。そして、アメリカの新大統領は、いまの状況のなかで失策を犯す可能性も高いことを忘れないほうがいい」。
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