破裂に向かうAIバブル(15)バブルの存在は明らかだが崩壊の時期は予測困難な理由

いよいよAIバブルが新しい局面を迎えているようだ。11月4日の世界的な株価下落は、来るべき日が来たかと思わせた。しかし、それは1990年の1月でもなければ、2008年の9月でもなかったので、AI株はまだまだいけると思った人も多かった。しかし、それは問題の問い方が間違っている。バブルは崩壊して初めてバブルと分かるという「名言」はまったくの嘘で、バブルは崩壊以前から分かっている。

AI関連株の下落が10月から始まっている。それなのに、これはAIバブルの崩壊ではないし、また、AIバブルという言葉自体が間違いなのだと言い続けているプロたちからすれば、ちょっとした小休止にしか過ぎないことになる。しかし、それは歴史的に見れば「いつか来た道」に過ぎず、私たちはまたしても目の前の現象について、「問い」の提示の仕方を間違っているのである。

経済ジャーナリズムにおいても、いまのAIバブルの扱いは難しいが、なんとかその微妙な問題の提示の仕方を工夫しているものを読んでみることにしよう。まず、米経済紙ウォールストリート・ジャーナルの金融担当ジェームズ・マッキントシュが10月25日に書いた「バブルは何故誰の目にも明らかな(危機)状態で膨らみ続けるのか」を思い出してみたい。彼は次のように書いていた。

「1990年代のドッドコム・バブル(ITバブル)においても、バブルの兆候を示唆する多くの警告が発せられていた。1999年には、この新聞を含むあらゆる一流紙が、収益ゼロのインターネット関連株のブームを、オランダのチューリップ・バブルや英国の南海泡沫事件になぞらえる記事を掲載していたし、大手ファンド・マネジャーによって投機的バブルの兆候が指摘されていた。にもかかわらず、株価はさらに上昇を続け、そしてついに頂点まで登り切って、大崩壊の日を迎えたのだった」

バブルの最中にデータを読み込んで判断すれば、普通の人でも「これは危ない」と気が付くことは不可能ではない。では、なぜ2000年に多くの人が裁きの日を迎えることになったのだろうか。マッキントシュは「このとき多くの人がIT株を買っていたのは、その企業の見通しがよいとか、ちょっとした売り買いの判断で収益を上げられると信じたからではなく、むしろ、友人が裕福になっているのを見て、そのおこぼれに預かりたいと思ったからだった」と指摘している。

「金融危機研究の大家であったキンドルバーガーは、これを次のように簡潔に表現している。『友人が金持ちになるのを見ることほど、自分の幸福と判断力を乱すものはない』。1999年、ドットコム企業の非上場株を手に入れていた人たちが、その上場の瞬間にたちまち巨額の富を手にした。この年の上場初日の平均リターンは70%を超えており、1980年代以降のデータから見ても、異常と言えるほどに高かったのだ」

では、非上場株の上場のお陰で儲けた人がいたのはわかるが、なぜ、上場されて高値となったIT株に多くの人が群がったのだろうか。「それは、これらの企業が素晴らしかったからではない。多くの上場IT企業は、ほとんどナプキンに書いた絵のような事業計画しか持っていなかった。にもかかわらず、上場で手に入った資金を乱費し、乱費すれば乱費するほど株価だけは上昇したのである」。

マッキントシュは、さらに多くの事例をならべて、AIバブルがいかに実際には危いものだったのかを回顧してくれている。この多くの事例はここでは割愛するが、最後に次のように書いているのは、ちょっと首を傾げざるをえない。「もちろん、AIバブルが存在するかという疑問は残る。大手テクノロジー株は高騰しているが、それは何年も前から続いている。たとえばOpenAIが誰もが高額を喜んで払うようなサービスを開発できれば、その株価は正当化されるだろう。結局、バブルの真の証拠は、崩壊したときにしか得られない」。

せっかくバブルの本質を衝いているのに、最後になって決まり文句で締めて台無しにするのはマッキントッシュだけではない。この決まり文句は1990年代に天才とか神とか持て囃されたFRB議長グリーンスパンの名言としていまも珍重されている。しかし、グリーンスパンは明らかにバブルが進行中にバブルを「フロス(小泡)」と指摘しており、それ以前にも1980年代のバブルを回避したことを自慢し、引退後に書いた著作ではバブルは予想できると断言すらしているのである。

それでは、マッキントシュが書いていることは間違っているのだろうか。必ずしもそうではないのだ。マッキントシュは11月5日にもウォルストリート紙に「市場は不安定になっている。下落は続くのか?」を書いて、危険になった事態を追跡している。そのなかで明らかになったのは、やはり実績のある大手テクノロジー企業株の下落率は、投機の対象でしかない株式と思われる、新進テクノロジー企業株の下落より小さいという傾向を指摘している。しかし、それは当たり前すぎてちょっと精彩を欠いている。

もうひとつ、10月に書かれたジャーナリストの記事を見ておこう。英経済紙フィナンシャル・タイムズ10月22日に同紙記者ケイティ・マーティンが投稿した「バブルに関する話題があちこちで飛び交っている」は軽妙な文章ながら、いっていることは重厚である。彼女もまた今回のAIバブル報道の難しさのなかで、事実の丹念な取材と独特のセンスによって、今回のバブルの特質と未来を報じてきた。ケイティの記事については以前、紹介したことがある。さて、なんと言っているか。

「いまも存続しているAIバブルへの楽観的世界観の根底にあるのは、揺るぎのない救世軍への信念、つまり、市場が何らかの理由で深刻な混乱に陥った場合、大規模な利下げや中央銀行による資産買上といった形で、すぐに救援部隊が駆けつけるという確信である。2008年の金融危機以来、プロ投資家も個人投資家も、この状況になれてしまっている。政策立案者は緊急介入のハードルが高いことを強調するが、投資家たちは彼らのブラフを見破ろうとしている」

アメリカ経済およびアメリカ国民への影響が大きいときには、自由経済の国家アメリカでも、あるいはアメリカだから、それまでになかったような救済策が創設されて救世軍が出陣する。AIバブル崩壊のさいには、ブッシュ大統領とグリースパン議長が、住宅ローンを用いた債券発効のハードルを著しく下げて、事実上、住宅バブルを創り出すことによって国民から失われた資産価値を埋め合わせた。住宅バブル崩壊とリーマン・ショックのさいには、オバマ大統領とバーナンキ議長が、巨大金融機関の国費による救済と紙屑となった住宅ローン担保債券の買上によって、世界的金融危機を緩和した。

したがって、いまの時点でバブルを認識しても、これまでの崩壊と違うのは、アメリカ政府への暗黙の信頼であって、経済的にも政治的にも軍事的にも「崩壊させられないほど大きなブーム」「破綻させられないほど危険なAI企業」が目の前に巨大な存在感をもって継続しているということなのだ。したがって、先のマッキントシュの「バブルの真の証拠は、崩壊したときにしか得られない」という言葉はけっして間違いではないが、「バブルの存在は分かっているが、崩壊する時期は先送りされており、その効果の終わる時期は崩壊したときにしか分からない」ということなのである。

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