破裂に向かうAIバブル(11)またエヌビディアが暴落した本当の理由

またしてもエヌビディアの株価が17%も急落した。今回はAI分野でのライバルである中国のディープシークが脅威とされたことが原因だとされている。しかし、それはあくまで近因であって、遠因つまり本当の理由は、いまのエヌビディアの株価に対しては、深い疑念が潜在しているということだ。そしてまた、トランプ大統領の再選によって打ち出されたハイテク政策が、あまりにも現実性が薄いという驚愕と脱力が、今回の90兆円もの損失を生み出しているのだ。

まずは報道から見てみよう。英経済紙フィナンシャルタイムズ1月28日付の「中国のディープシークの脅威が広がるなか、ハイテク株が落ち込んでいる」は、タイトル通り、ディープシークの台頭が大きいとしている。「中国のディープシークが米国のライバルよりずっと少ない計算能力で進歩を達成してシリコンバレーを驚愕させたことで、テクノ銘柄が急落している」。

注目すべきは、下落しているのが直接的なAI銘柄だけではないことだ。「暴落は従来のハイテク銘柄だけでなく、AIインフラ向け電気ハードウエアを供給するシーメンス・エナジーも20%下落して、データセンター向けサービスに多額の投資をしているフランスの電力メーカーであるシュナイダーエレクトロニックも9.5%下落している」。当然だと思うのは合理的に考えれば間違いだ。なぜならAIの繁栄が約束されているなら、その中心企業がどこになろうと、関連会社は儲かるはずだからである。

さらに同紙は、今日の版で「アジアのハイテク株がウォール街の暴落をうけて下落」を掲載している。「エヌビィア株の急落が下押し圧力を高めている」というのだが、中国のディープシークの躍進が大きいというのなら、むしろ、アジアの投資家たちには別のチャンスが回って来ることにならないのだろうか。それとも、アジア市場での投資家たちは、トランプが怖いので下落を演出しているとでもいうのだろうか。

フィナンシャル紙には前日、同紙寄稿者のトビー・ナングルの「ディープシークの躍進による売りは集中化した米国株式市場のリスクを示している」を掲載していた。「ディープシーク躍進が引き起こしたハイテク株の売りは、集中化した株式市場のリスクを思い出させる」。さらにナングルは「今日のスーパースター企業が高く評価されるのは、世界規模の支持を受けているからだ」と述べるいっぽうで「しかし、今日もっとも価値のある企業が、10年後も最も価値ある企業であることは稀だ」とデータを示しながら指摘している。

もうすでに十分なほどのAIを中心とするハイテク株への集中が起こっているというのに、そこに再登場したトランプがまたしても煽りいっぽうの政策を打ち出し、幻影のうえに幻影をかさねる効果を生み出している。しかし、それは市場参加者にとっては、実は撤退したいのに撤退できないというジレンマを生み出していることを意味する。彼らは本音では何でもいいから、いまのジレンマから逃れるための口実が欲しいのである。

「かつて、株式投資コンサルタントのチャーリー・マンガーは、『分散投資は無知な投資家のためのもの』と述べたことがあった。これは分散投資を馬鹿にしているのではなく(必ずしもリスクテイクせよという意味でもなく)、プロが持つかもしれない洞察力を軽視させてしまうという意味だった」と述べつつ、専門家としての考えを述べている。個人投資家の人はナングルのプロ的な意見に耳をすますのもよいだろう。

しかし、投資に興味ない一般の人にとっては、なるだけ早く素人的な投資家たちが、トランプの煽りがまったくの幻影であることを見抜いて、リスクの高い投資を回避するようになってほしいと願うしかない。おそらく、イーロン・マスクのトランプ政権からの離脱がひとつの切っ掛けとなると思われるが、他の切っ掛けでも構わない。世界がほんのすこしの正気をとりもどすことができればいい。そのためにAIを使ってくれてもかまわない(笑)。もし株式市場の全面的な下落に至るとしても、なるだけ小さな規模で済んで欲しいと思うのみである。

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