破裂に向かうAIバブル(8)2025年が崩壊の年であることを示唆する5つのグラフ

いまのアメリカ経済がバブルであることは、自明のようなものだが、その根拠を提示するには多少の手間がいる。なぜなら「バブル」という言葉は、経済学用語ではないし、また、常に統計学的に証明されてきたわけではないからだ。しかし、いつくもの経済指標を集めて、それらが過去のバブルとその崩壊の時期に、きわめて類似していることを示せば、少なくとも警戒すべきであることは伝わるだろう。ここでは5つの指標で見てみよう。

英経済誌ジ・エコノミスト12月22日号に掲載の「アメリカの株式市場はいったいどれくらい過熱しているのか?」は、実に地道に株式市場から得られている経済指標を並べてみせて、それがほとんどバブルの時期とそっくりであることを示唆している。どういうわけか、この記事は謙虚にも「バブルだから2025年は崩壊の年だ」などとは言わないが、そう読み取ることができるようになっている。ともかく見てみよう。

まず、アメリカの消費者に今後12カ月で株価が上昇すると思うか尋ねたデータで、この調査は1987年以来続いている。今回の調査では、回答者の56%が上昇すると答えている。これは過去の調査と比べてどのような意味をもつのだろうか。すくなくとも調査が始まって以来、最高の数値であることがグラフ①から見て取ることができる。過去のバブルとその崩壊のときよりもずっと高い数値なのである。

次に、世界の非銀行系投資家の株式への投資配分を示したグラフ②だが、これが49%にまで高まったと推定されている。さまざまな投資先があるのに、わざわざリスクが高いという人が増えている株式に投資するというのはおかしいのだ。しかも、このレベルに達したのはITバブルのときと2007年の住宅バブルのときだけであり、現金の過去最低までの低下をみても、2024年がいかに株式への投資が加速されたか分かるわけである。

さらに、株式への投資過熱を測る指標としてロバート・シラーたちが開発したCAPE比率があるが、これは過去10年間の平均年間収益をインフレ調整した後、株価に達するまで何倍に拡大しなければならないかを示す(つまり、株価を10年間平均年間収益で割った)値である。その経緯を示しているのがグラフ③で、最近、シラーはマスコミに登場しなくなったようだが、前回のトランプ景気のさいには頻繁にCAPE比率が高いと指摘していた。

加えて、このCAPE比率の逆数が「CAPE利回り」であり、株価に比べて企業利益が少ない場合、株式を保有することによる利回りは低くなることを示している。これまでのデータから、歴史的に1900年以降、CAPE利回りが低いほど、その後の10年間のリターンは悪くなることが見て取れる(グラフ④)。現在、S&P500のCAPE利回りは2.6%だが、これまでCAPE利回りが2%から3%の間だったとき、平均年率リターンは名目マイナス1.5%、実質マイナス4%だった。グラフを見るとかえって理解しにくくなるかもしれないので、ざっといえば、株価が安いときに買った人が得る配当はけっこうよくても、株価が高くなってからもし配当が同じくらいならば、それはいい投資ではなかったことになるということである。

最後に、世界の株式市場と比べたとき、アメリカの株式市場は異常だということが分かる。ジ・エコノミストは異常とは書かずに「評価が極端」と書いているが、要するに、アメリカだけが異常に高いことに特別の根拠があるか、それともアメリカは単なる単独的バブルかのどちらかということだ。アメリカの株式指数に含まれる企業の時価総額は、先進諸国市場全体の総額の70%を占めており(グラフ⑤)、しかも、アメリカの株式市場内でも偏りがはなはだしく、S&P500の上位10社だけで全体の時価総額の40%を占めているのである。同誌の締めくくりの文章は次のとおりだ。

「これらのグラフは、2025年にアメリカの株価市場が暴落することを証明しているわけではない。ドナルド・トランプは株価をさらに押し上げる可能性のある減税と規制緩和を約束して、まもなくホワイト・ハウスに帰還する。AIはやはり利益を押し上げるかもしれない。そして、バブルが弾ける必然性は存在せず、穏やかに収縮することもありうる。では、2024年にバブルは形成されたのだろうか。そうではないという結論を出すことは難しくなりつつある」

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