破裂に向かうAIバブル(7)金融イノベーションがもたらす加速リスクの恐怖

アメリカは金融経済も実物経済も、とっくの昔にバブルになっている。そこにドナルド・トランプという政治的な煽りが入り、さらにイーロン・マスクという技術幻想が加わって、バブルのさらなる過熱状態へと突入してしまった。バブルの最中にバブルかどうかは分からないといった元FRB議長がいたが、いまでは彼はただのバブル扇動者だったことが分かっている。アメリカは政治も経済も技術もすべてバブルで、もう破裂するしかないのだ。

英経済誌ジ・エコノミスト12月11日号は社説「アメリカの熱い市場は新しいリスクをもたらしている」を掲載した。最近の同誌はアメリカのギャンブル狂いを「祝福」するなど、バブル状態に対する警戒が薄くなっているが、多少の冷静ささえあれば、「ドナルド・トランプ+イーロン・マスク=バブル崩壊」という方程式を否定することは困難だろう。問題はいつ悲劇が起こるかだが、わたしはもうすでに起こりつつあると思っている。しかし、まあ、その前に、同誌の話も聞いておこう。

「アメリカがトランプを大統領にして以来、上場企業の価値は4.2兆ドル増加した。これはロンドン株式市場全体の時価総額を上回る。S&P500は今年だけで30%近くも上昇している。株価が予想利益の23倍というこの数値は、めったに見られるものではない。また、近年、構成銘柄がこれほど安く資金調達できる状況もこれまでになかった。リスクの高い企業の資金調達コストも、2007年の春以来、国債と比較して最低のレベルにある。どこを見ても熱狂の兆候が見られ、今月、ビッドコインの価格も10万ドルに達した。そして、これらすべての現象が、実質金利がプラスのなかで起こっているのだ」

では、いったいアメリカに何が生じているのか。普通の説明ではアメリカの技術革新が投資家たちを魅了しているというものだ。人工知能(AI)チップを販売しているエヌビディアのジェイスン・ファンと、電気自動車やロケットを製造しているイーロン・マスクが、このブームを体現していると同誌はいう。彼らのエヌビディアとテスラこそ「注目銘柄ベスト7」の代表であり、現在この7つの銘柄だけで、なんとS&P500の時価総額の3分の1、利益の4分の1を占めているという凄まじさだ。

しかし、これだけではない。同誌はもうひとつの要素、金融イノベーションにもっと注目すべきだという。経済に対する技術革新の衝撃は、実物経済だけでなく、金融経済でも大きな要素を持っている。たとえば、上場投資信託(ETF)は、数十年わたる上昇を続け、いまやさらに加速している。アメリカで取引されているETFは11兆ドル相当の資産を動かしており、ますます投機的な様相を呈している。投資家たちはいまや、複雑に組成されたETFを購入できるようになり、そうした金融商品を提供しているマイクロストラテジー社の株価は約500%も急騰している。

同誌はさらにさまざまな金融市場のレバレッジを生み出す新参者たちを列挙しているが、それらに共通しているのは、すばらしい金融イノベーションのお陰でリスクを低下させつつ巨大な投資機会が生まれているということだ。そして、同誌が述べようとしているのは(かなり不十分だと思われるが)、そうした現象が起こったのは金融テクノロジーの恩恵かもしれないが、これから本当にそれらが恩恵だけをもたらしてくれるのかは、まったく分からないということである。

「投資家のなかには、これから数年間の収益は低下する可能性があると考えている者もいる。しかし、本当に問題にすべきなのは、市場暴落のリスクが低く見積もられているのではないかという懸念である。いまのところボラティリティは正常に上下し、デフォルト予想も穏やかだが、人びとのメンタリティは突然変わる危険性がある。アメリカのハイテク企業のリーダーのひとりが、突如、悲観的な見通しを発表して、金融イノベーターたちが新製品に含まれているリスクを、誤って低く見積もっていたことが分かったらどうなるだろうか」

おおむね、私はこうした冷静な見方に賛成だが、同じジ・エコノミストがアメリカに生まれたギャンブル加熱については楽観的な社説を載せていたことを考えると、まだまだ懸念の度合いが少ないように思われる。数学を駆使したような金融商品についての解説は、常に「うまくいっている」ときのことしか述べていないものだ。「うまくいかない」ときのことは巧妙に避けているのである。2000年のITバブル崩壊も、また、2008年のリーマン・ショックも、そうした人工的な市場と人工的な金融商品の想定が「うまくいかなくなる」場合を読みこめていなかったために生じた。今回の巨大な加熱は同じでないと、誰も言えないのではないだろうか。何かはまだ分からない。しかし、何かを正面からみていないのだ! それはやがて誰の目にも明らかになるだろう。いずれにせよ、いまのアメリカは狂気のダンスを踊っていることは間違いない。

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