仮想通貨の黄昏(21)ビットコインのポンジー詐欺的性格がまた露呈している
何度いっても分かってもらえない真実はこの世に多くあるが、ビットコインや他の仮想通貨は「ポンジーゲーム」なのだということを理解してもらうのは本当にむずかしい。この種の金融ゲームは、なんのことはない「ねずみ講」なのだという現実が、いくらでも露呈しているのにである。いまビットコインがまたまた暴落しているが、関係者のコメントは「いまは下落しているけれど、またしばらくすると上がる」というもので、これは嘘ではない。しかし、その暴落と暴騰の犠牲者となるのは、上記のような言葉にだまされて買ってしまった人たち、その多くは若者たち、あるいは貧乏人たぢである。
英経済誌ジ・エコノミスト12月4日付は「ビットコイン急落、窮地のストラテジー・インクはほんの初期の犠牲者にすぎない」と掲載して、これからさらに犠牲者が拡大してくとの報道を行っている。しかし、ここには間違いがある。ストラテジー・インクは犠牲者ではなく加害者であり、あまりにも大きな水爆を爆発させたために、自分たちもやられてしまった馬鹿な超大国みたいなものである。
このストラテジー・インクの概要やその「犠牲」の実態を細かく書く気にはなれないのだが、最低限のことは書いておかないと何が起こったのか分からないだろう。まあ、この会社はマイケル・セイラ―によって創業されたころは中堅ソフトウエア会社だったが、そのうちビットコインで儲けることを考えだして、仮想通貨取引の世界ではいちおう知られた存在となった。何のことはない、そのビジネスとは、自分が買い集めたビットコインをもとに資金を集めてさらにビットコインを購入して、資金を提供してくれた者たちに法外な利益を還元するというものだ。
ストラテジー社が集めたビットコインは65万枚で、それはビットコイン全体の枚数の3%に過ぎない。この3%をタネにして資金を募ってビットコインの急騰にのって利益還元を行い、さらにその利益を再び預かってビットコインを買って利益還元を図るという、なんのことはない、よくあるレバレッジをつかった手法で派手なビジネスを行っているように見えただけのことだった。
しかし、これもよくあることだが、種に使ったビットコインが急騰から急落に転じると、このビジネスモデルは破綻する。「ストラテジー社はビットコインに全面投資して以来、他の収入源はほとんどなく、配当金と借入金の利息払いで年間8億ドルの負債を抱えている。ビットコインの価格は10月初旬から25%下落した。この期間中にストラテジー社の株価は40%以上も下落した。時価総額540億ドルは現在保有資産価値を下回っていり、これは株式保有者にとってさらなる悲惨な損失、ビットコイン価格をさらに下落させる旧制売却、あるいはその両方につながるリスクを抱えている」。
ストラテジー社がまだましだと思えるのは、この種の金融フェイクの場合には、しばしば最初のころの資産を投資してくれた人たちにはちゃんと利益を償還するが、途中からはひたすら再投資をすすめて資金をさらに受け取り、そして市場に投入することなくその再投資資金をもってドロンするというポンジー詐欺は行っていないことだろう。ポンジー詐欺およびその考案者のポンジーについては拙著『世界史を変えた詐欺師たち』(文春新書)をお読みいただくか、ウイキペディアのポンジーの項目を検索していただきたい。後者は私が書いたわけではないが、前者のポンジーの章にのっとって書いてある。
下の表はビットコイン・リッチ・リストといって、所有量の上位何%で全体の何%を持っているかを示している。ちょっと読み取りにくいが、上位0.03%の所有者ですでに61.4%を占めており、1.7%で93.06%にまで達している。この極端な不均衡は、この仮想通貨の性格を露わにしており、創始者たちおよび低価格の時代に大量のビットコインを保有した者あるいは投資機関が、極端な優位に立っていることをしめしている。これだけみても、その「ポンジー的性格」と「ねずみ講的性格」が明らかだといってよい。高値買いをして暴落に遭遇すれば、膨大な財産を失うことになるだろう。
つまり、繰り返すが、ビットコインの巨額持ち主のかなりの部分は、最初の頃の二束三文時代に大量に手に入れた者か、あるいはあまり高騰していなかったころに組織的に保有した投資機関である。ということは、急騰しているときには新規投資者を募ることで大儲けすることができ、また、かなりの下落をしても、最初の投資額からみればまだ十分に儲けは確保されている。ビットコインがこの世からなくならないかぎり、あるいは今でも儲けられると信じ込む若者たちが消滅しない限り、事実上のポンジー詐欺が可能だということである。
こうした背後の怪しげな構造は、いわゆるステーブルコインといわれているドル連動型の仮想通貨でも同じことだ。すでにこの連載で紹介しておいたが、実は「ステーブルコインはステーブルではない」のであって、ステーブルコインが急騰したのを見て喜んでいるのは、ほとんどバカというしかない。価格が変動しないというのが売物のステーブルコインが急騰するということは、いずれ暴落するということで、すでにステーブルコインのすべてではないにしても、かなりの部分のスペックや保証がフェイクだったのである。
「ストラテジー社の当初の大成功や、ビットコインの価格が回復すれば将来的にありうる成功は、金融史に燦然と輝く事だろう。しかし、話題になった投機的な商品を危機にさらすことになった詳細は、しばしば価格が急騰する間は投資家から隠されている。そしてそれは、悲惨な暴落のなかの余波のなかで初めて明らかになるのである。今回は、その脆弱なモデルが世界に晒されることになった。ストラテジー社の苦境が深刻になればなるほど、投資家は自分自身を責めるしかないのだ」
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