仮想通貨の黄昏(17)トランプ一族の資産拡大の道具と化したミームコイン【増補版】
トランプ一族は勝手に「通貨」を発行して、一族とお近づきになりたい金持ちたちに、その「通貨」買わせて価値を釣り上げ、瞬く間に一族の資産を数十億ドル(数千億円超)増やしている。こんなことが許されているのが、いまのアメリカなのである。利益相反も甚だしい行為を大統領が自ら音頭をとって行っているわけだが、こんなあざとい錬金術を行うために、仮想通貨は発明されたのではなかった。
英経済誌ジ・エコノミスト5月15日号は「仮想通貨は究極の泥沼資産と化した」を特集している。何のことはない、憂慮されていたことがすべて実現されてしまったという、嘆きのリポートなのである。「仮想通貨(暗号資産)は、詐欺、マネーロンダリング、その他の金融犯罪を膨大な規模で加速しており、アメリカ政府とウォール街との最悪の関係を築きつつある。仮想通貨は究極の『腐敗沼資産』と化しているのである」。
もちろん、すでにこのシリーズで指摘してきたように、仮想通貨の仕組みは一部の巨額保有者たちが、新規の保有者たちを煽って投資させ、そのことで自分たちの資産価値を高騰させる仕組みだ。それが詐欺まがいの連中がやっていることだったのだが、その詐欺の中心人物が大統領だったらどうなるだろうか。
「トランプ大統領の一族は、自分たちが発行したミームコインを世界中で販売し、トランプ自身のものを含めて彼ら一族のミームコインを、トランプ一族と夕食を共にしたい大口投資家に買わせて、価値を高騰させてきた。大統領一族の保有資産は数十億ドルに上り、仮想通貨はおそらく彼らの最大の富の源泉となっている」
すくなくともジョー・バイデン政権の時代には、証券取引委員会(SEC)は仮想通貨に対して厳しい見方をしており、多くの有力な仮想通貨売買当事者たちを執行措置や訴訟に追い込んでいた。銀行もまた仮想通貨企業へのサービス提供やステーブルコインへの投資については二の足を踏んだものだった。しかし、いまや自分の利益と政府の方針を一致させたトランプ大統領みずからの指導の下に、仮想通貨を規制する法案は廃案にされている。
アメリカ以外の国ぐにでは、その規制の強弱はあるものの、さすがに政治リーダーの利益を生み出すために仮想通貨を煽るようなことはない。たとえば、EU、日本、シンガポール、スイス、アラブ首長国連合などでは「デジタル資産に関する新たな規制の明確化に成功している。ましてや、アメリカのような政策の利益相反を蔓延させることなどありえない話なのである」。
同誌はもはやノスタルジックといってよい調子で、かつてのビットコインの創始者たちが考えていた理想を思い出している。「2009年にビットコインが登場したとき、ユートピア的で反権威主義的な運動家たちがこれを歓迎した。仮想通貨を最初に導入した人びとは、金融に革命を起こし、個人をインフレから守るという崇高な目標を掲げていた。しかし、いまではそんなことはすっかり忘れ去られている」。
しかし、こういう懐古的な思い出はかなり怪しげなもので、創始者たちのかなりの部分は同誌が指摘するようなユートピアを抱いていたとは思えない。それは彼らが言っていることと、設計されていたシステムが矛盾しており、個人を守るというよりは価格を釣り上げることに向いていたからだ。それでも彼らがユートピアを夢みていたというのなら、よっぽどの楽観主義者か、よほど非現実的な性格だったのだろうと思うしかない。
しかし、これから始まる悲劇は、このブログでも指摘したように、仮想通貨とトランプ政権の運命が接続されてしまったことである。それはトランプとその一族が自分たちの利益のために行ったのであり、アメリカ社会はそれをやめさせることができなかった。そして、トランプ政権の政策が外交でも関税政策でも失敗を続けることによって、仮想通貨の信用も急速に失われてしまうということだ。
古来よりユートピアは何度も描かれ、そして実践するたびに崩壊して陰惨な悲劇を生み出してきた。ユートピアが存続するのは、それがごく小さな規模だったときだけであり、世界規模で、しかも人格的に欠陥のあるアメリカ大統領が当事者となってしまったら、もう終焉の段階に入ったといってよい。
【追加】このトランプの恥知らずな資産拡大法は、英経済紙フィナンシャルタイムズ5月17日付の「トランプとのディナーで勝利した仮想通貨トレーダーも巨大な利益を得ている」によれば、もっと具体的に手の内が描かれている。「トランプ大統領のミームコインを大量に購入するコンテストに参加して、大統領との晩餐会のチケットを獲得したトレーダーは、数百万ドルの利益を得た可能性があるといわれる」。
この露骨で強欲な金儲けを行っているのが、世界で最大・最強の国家の大統領だということは、もう驚きを超えて眩暈がするほどだが、いまさらトランプの所業に驚いていてもしかたがない。ともかく、事態を直視して、アメリカで起こっているおぞましい事態をなるだけ詳しくお伝えすることにしよう。
「4月23日に発表されたこのコンテストでは、公開されている仮想通貨ウォレットで指定された期間内に最も$TRUMPTRUMPミームコインを保有した人にディナーが提供されるということだった。このコンテストによりこのミームコインの価格は9.26ドルから15.33ドルに上昇した」。グラフで見る限り、トランプがミームコインを売り出した直後のような高騰は起こっていないが、ディーラーたちが動かす資金の量が大きいので、儲けも巨大なものになる。
あるアカウントは$TRUMPを1080万ドルで買って、1330万ドルで打って、それだけで260万ドルを手にしたという。この類のディーラーが大勢いるわけで、それを合わせると数百万ドルを超えており、すぐにこの類の濡れ手に粟の儲けはすぐに数千万ドルになるだろう。トランプは仕手株の中心人物、博打場の元締めなのである。しかも、それを公然とやっている。
トランプ大統領は、第二期に臨むにさいして仮想通貨を重要な政策課題と位置づけ、同政権はデジタル市崎規制の緩和と、この業界の成長促進を目指している。と同時にかれの一族も、大っぴらに仮想通貨ベンチャーにかかわっているという。「大きく保有しよう、強く保$TRUMPTRUMPを保有しよう」というのがトランプのミームコインを煽る標語であり、ここに書いているだけで吐き気がしてしまう。トランプ米大統領の仮想通貨は、いったい何のためのものなのか。「トランプの仮想通貨は投機の手段となること以外に何の目的もない」と同紙は断言している。
もっと詳細な事態が、すでにこのフィナンシャル紙以外でも報じられており、こんな大統領を選んだアメリカ国民に対して呆れると同時に、没落の色彩を濃くしているこの国の将来を思って悲哀の情、寂寥の感にかられる。これは法治国家であるかぎり立派な犯罪であり、なぜ警察および司法当局が動いていないのかも不思議に思わざるを得ない。こんな国と真顔で経済交渉をしなければならない、石破首相に同情の念を禁じ得ない。
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