仮想通貨の黄昏(7)ザッカーバーグ、ついに独自通貨を断念する!

メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)の株式が、2月3日、一時27%も下落して世界を驚かした。時価総額で2300億ドル(約26兆4200億円)が消えた計算になる。このシリーズのテーマは仮想通貨なので、株式については世界中を駆けまわっているニュースを見てもらうことにするが、通貨のほうもメタにとっては暗いニュースになったといえる。1月31日に同社は、試行錯誤中だった仮想通貨ディエム(旧リブラ)を断念して、関連資産を売却したというニュースも世界中を駆けまわった。

株価についてのニュースはメタの業績不振が指摘されるが、ディエム断念については通貨当局のプレッシャーが理由とされることが多い。しかし、この2つはいまのメタにおいては経営の混乱という点で繋がっているのではないかと思う。そもそも、決済手段としての通貨を、一企業が創設するという試みが、あまりにも今の金融システムを軽視したものといえた。通貨発行権はあらゆる国家(例外はあるが)にとって、国家としての権力の象徴であり、また、実質的にも利益の源泉なのである。

まず、権力の象徴のほうを簡単に済ませてしまおう。現代の国家にとって通貨を発行するということは、自国の金融をつかさどる行為を、国内的に独占することを意味する。たとえ形式的には、独立性の高い中央銀行が発行しているとしても、それは国家のなかのひとつの機能を委託しているだけで、その意味では、別にMMT理論がわざわざいわなくとも、現代の通貨は国家通貨なのである。だからこそ、国家内に金融危機が起こったときには、国家は強いコントロールを発揮して、中央銀行とともに、もしくは統制下に置いて、通貨の崩壊を回避しようとするのだ。

では、通貨を発行することで国家はもうかっているのか。通貨を発行する権利を通貨発行権(シニョリッジ)というが、同時に、これを通貨発行益とも訳すことが多い。権利であり利益なのだから、いちおう、「もうかっている」と考えてよい。新しい通貨を発行することによって、国民のためになる行政を行うための資金にすることができるからだ(しばしば、そうでないこともあるが)。そして、いまの通貨制度では、中央銀行が通貨を発行するさい、その根拠として政府が発効している発行額と同額の国債を購入する。したがって、中央銀行のバランスシートの右側(負債)に新規発行の通貨の額が付け加えられ、左側(資産)に同額の国債が記載される。

ここからが重要なのだが、右側の中央銀行券には利子はつかないが、左側の国債には利子がつく。つまり、中央銀行は通貨を新たに発行することで、国債から利益を得ることができるわけである。では、この利子はどうなるのかといえば、最終的には国庫に納められる。つまり、政府に戻されるわけである。もともと、この利子というのは国債を発行した政府(財務省)が与えるものだが、この利子分は日銀の利益として計上された後に、国庫に入る(国家に戻る)わけだ。この利子分を通貨発行益というのが普通だが、新たに発行した通貨の額をそう呼ぶときもあり、ちょっとややこしいのだが、実は、現在価値で計算すると同じ額になってしまう(その説明はいずれやるが、同じになるとだけ記憶しておいていただきたい)。

ちょっと長くなってしまったが、この仕組みを民間企業でやろうとしたのがメタ(旧フェイスブック)だった。まず、リブラ原案で説明する。リブラという仮想通貨を発行して、使いたい人たちには法定通貨と交換する。法定通貨をバランスシートの左側に入れて、債権や株式の運用あるいは新しい事業を行なって利益を生み出す。もちろん、その一部はリブラの決済機能や流通機能を円滑に進めるための経費になるが、残りはメタが手にすることができる。これは何と素晴らしいことかと、フェイスブックの参加者は思ったかもしれないが、これは一言でいえば御法度である。これが出来るのは国家だけにしておかないと、私的通貨でもうける企業が次々と登場するだろう。

その後、フェイスブックは当局の批判を受けて「やっぱりだめか」と思ったらしく、リブラの原案は取り下げて、たとえばリブラはステイブルコインにする(つまり、1リブラ=1ドルに固定する)とか、資産運用についてもいろいろ制限をつけることを考えたが、基本的には国家の通貨発行権=通貨発行益と同じことを、私的に民間でやろうとしていることには変わりなかった。しかも、もうお気づきだろうが、国家が発行する法定通貨の根拠となる国債の利子というのは、実は、国民の税金で賄われる。私的通貨は、ひとことでいえばその企業の「丸儲け」で、別に公共の福祉のための事業を行うわけではないのだ。

しばしば、新しい技術が出てくると、それはあらゆる人にとって中立的なもので、人類の福祉が増進されると思いがちだ。ビットコインを崇拝している人たちも、いまだに何か福音でもあるかのように考えたがる。しかし、実態は一部の投資家のための新しいマネーゲームの手段であり、異常に膨らんでしまった金融資産の、一時的な投資のポートフォリオ戦略の危うい道具に過ぎない。

ついでに述べておくと、MMTの輸入元のひとりが、フィアット・マネー(不換通貨)の時代には、通貨はもはや政府とか中央銀行の「負債」ではないので、いくらでも発行できるなどと発言していた。しかし、これはあまりにMMTの拡大解釈というべきもので、もともとのMMTは「負債」として論じていたはずだ。だからこそ彼らは、たいした歴史的考察もなしに、通貨の起源は負債だと、無理やり決めつけているわけである(この点については「仮想通貨の黄昏(2)お金の起源論には注意が必要だ」を読んでいただきたい)。

もちろん、人は妄想を含めて何をしゃべっても(一定以上の害にならないかぎり)許されるが、現代通貨というものが不換になってからも、負債の連鎖のなかで位置付けられることは続いている。その現実を無視したいのなら、あるいは破壊したいなら、まったく別の通貨制御システムを提示しなければならない。それが、「インフレになったら増税すればいい」だけでは、ただの「子供銀行ごっこ」というしかない。

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