仮想通貨の黄昏(19)トランプ一族の仮想通貨による資産拡大はドルを崩壊させる
ドナルド・トランプが大統領としての権限を用い、政治上の敵を封じ込め叩き潰すだけでなく、自らの資産を急速に増やしていることは繰り返し報じられている。トランプ政治とは多くの大統領令を用いて超法規的な政策を実行するだけでなく、被害を受ける者が裁判に訴えようとしても、司法界に圧力をかけてそれを阻止してしまう。たとえ何とか裁判にこぎつけても、巨額な資金を用いて裁判の長期化をはかられ、告発側が破産してしまうという構造がある。そして、ここで紹介するのが、トランプ一族が行っている仮想通貨を用いたあざとい財産増殖法とその行きつく先である。
英経済紙フィナンシャルタイムズ10月16日付に掲載された「トランプ同族企業連合は仮想通貨でどうやって10億ドルを儲けたか?」は、トランプおよびその一族が行っている仮想通貨による資産拡大に焦点をあてた告発記事だ。読者はその実態に驚くだけでなく、なぜ世界の先端国であると自他ともに認めるアメリカで、そんな行為がまかりとおるのか、不思議に思うだろう。
まず、トランプ一族が行ってきた、仮想通貨以外でのビジネスを見ておこう。同紙によれば、トランプの名を付したブランド品の聖書、コロン、スニーカー、サイン入りギターなどを販売してすでに数百万ドルを稼ぎ、ソーシャルメディア企業や報道機関から数千万ドルを「巻き上げている」。メラニア夫人はアマゾンと4000万ドルのドキュメンタリー制作契約を締結したが、それは業界の常識を超える金額だったという。
「しかし、トランプ家の新たな富の最大の源泉となっているのは、大統領とその家族が築き上げた、急成長を続ける仮想通貨帝国である。フィナンシャル紙の調査によると、このビジネスは過去1年だけですでに10億ドル以上の税引き前利益をあげており、これはトランプ政権の仮想通貨業界支援政策によって大いに促進された、めくるめく仮想通貨ブームのお陰でもある」
しかも、この10億ドルという数値は実現利益のみの数値であり、トランプの仮想通貨事業の帳簿上の増加分は数十億ドルに達している。たとえば、トランプのSNSであるトゥルース・ソーシャルの親会社であり、ビットコイン・トレジャリー事業も手掛けている「トランプ・メディア&テクノロジー・グループ」の株式時価総額は、現在、19億ドルの価値があるとされている。こんなことは利益相反そのものであり、いまや仮想通貨はトランプ一族とその取り巻きにとっての「濡れ手に粟」のぼろ儲けマシーンにほかならない。
そもそも、トランプはかつて仮想通貨を「根拠のないシロモノ」とさげすみ、ビットコインについても「詐欺」だと罵倒していた。さらに仮想通貨などはドルの価値を下落させる「非アメリカ的な存在」と批判もしていたのである。ところが、トランプがウォール街の銀行と激しく対立したころから、仮想通貨を煽ることによって自分が優位に立てると思うようになったらしい。アメリカの通貨ドルを操るウォール街に対して、自分が仮想通貨の守護神となって圧力をかけ、さらには仮想通貨を支配することによって、ウォール街とドルをコントロールできると思ったといわれる。
そういう背景を考えると何か深謀遠慮があるように思えてしまうが、これも何のことはない、自分が仮想通貨の後見人となることによって、ウォール街をもコントロールするだけでなく、巨万の富を手にできると、きわめて単純に信じ込んだのにすぎないわけである。その考え方の核心はナッシュビルで開催された仮想通貨カンファレンスで語った次のようなトランプの言葉から推測できるだろう。「ルールは業界を憎む人びとではなく、業界を愛する人びとによって書かれるだろう」。
限りない権力への願望とともに、ここに限りない富への異常な執着を見ることは容易である。ただ、それらをトランプが持つと、いつものように底が抜けていることが多く、そのためアメリカと世界に巨大な不幸をもたらすことになる危険が、ますます大きく膨らんでいることがほの見えてくる。とりあえず単純化して指摘しておけば、仮想通貨は巨大になればなるほど、ドルを強くするのではなく脆弱にしてしまう。それはトランプ自身が言っていたことだ。ドルと緊密に結びついた仮想通貨が崩壊したときの、法定通貨に対する計り知れない破壊力を考えると寒気がする。
さらに仮想通貨を支配しようとしているようだが、すでにステイブルコインを含めて、仮想通貨の世界では、多くの脱法的あるいは違法すれすれの拡大増殖が進行していることで、実は、仮想通貨のコントロールがもはや不可能になっているかもしれないのだ。これはすでにフランスのノーベル経済学賞受賞者ジャン・ティロールの「ステイブルコインはまったくステイブル(安定的)ではない」との指摘を紹介した。つまり、トランプは仮想通貨の支配を通じて世界の富の支配へと進みたいようだが、すでに仮想通貨の支配も不確かになりつつあるのである。
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