破裂に向かうAIバブル(12)引導を渡すのはトランプのデタラメ経済政策そのものだ
アメリカの株式市場の下落に対してはもう諦めムードが漂っている。ハイテク株が急落しているだけではない、トランプ大統領が繰り広げるデタラメな経済政策によって、金融市場そのものが異常をきたしているのだ。そのもっとも顕著な兆候が市場間の連動がくずれたことだ。株式市場が下落をしたら、債券市場が上昇するのがセオリーなのだが、そのメカニズムがどうも働かなくなったらしい。
英経済紙フィナンシャルタイムズ3月15日付にケイティ・マーティンの「米株式がもっと悪化する可能性がある理由」は、もはやアメリカの株式市場と債券市場との連動がうまくいっていないというレポートだ。マーティンは市場の動きからかなり理論的な考察を同紙に寄せる、どちらかといえば辛口の記者だ。だから悲観的な見通しを述べていたとしても、多少は値引きしてもいいのかもしれないが、今回はちょっと現実のほうが悪すぎる。
まず、前提となる「理論」による考察だが、国債市場は株式市場の陽に対して陰となるのが普通であって、これはすでに数十年にわたって分散型ポートフォリオに役に立ってきたメカニズムである。「ところが、今月の急激な株式市場の混乱では、バランスをとるのがうまくいっていない。株価は今月5%下落するなど大暴落しているのに、債券価格は上昇しているものの、とても劇的な上昇とはいえない。「ことに問題なのは、ベンチマークとなる10年米国国債が先月と同じ水準にあることである」
マーティンにいわせると「これは感情(センチメント)ショックであって、経済そのものの問題ではないが、それがかえって問題解決を困難にしている」のだという。経済のデータは不安定でがひどいわけではない。しかし、投資家たちを市場から遠ざけているのは、「いま我われは苦難の谷をくぐりぬけている」という漠然とした、しかし、目の前にうんざりとするほどの根拠のあるセンチメントなのである。
いうまでもなく、それはトランプ大統領のデタラメな経済政策である。「トランプ政権の関税政策による絶え間のない翻弄は、いずれ実体経済に打撃を与えることになるだろう。裕福なアメリカ人は、いま急落している株価に大きく依存しているため、今回の事態は彼らの財布に痛打をもたらすに違いない。企業は恐るべき政策転換に対応するため支出を控えている。投資家にとっては不確実の上昇のため、ファンドマネジャーに見通しが立たないのだ」。
では、金融経済に巨大な影響力をもっているFRBが何かしてくれないのか? 痛手になっているのは金融経済そのものではなく、関税、地政学、不確実性そのものがダメージを与えているのだから、FRBにできることなどないのである。「そもそも、投資家たちがFRBが白馬にまたがって駆けつけてくれ、金利を下げて混乱を収拾すると信じていたなら、債券はいまよりずっと強気相場になっていただろう」。
では、政治的な解決法というのはないのだろうか。たとえば、トランプ政権がFRBに強く利下げを要求するというようなやり方である。「これもできそうな気がするが、いまの投資家たちのセンチメントからすれば、そうした政治的行為は中央銀行の独立性に対する不当な介入であり、さらに市場メカニズムを破壊して、事態をますます悪化させる可能性が高いだろうという予想が生まれやすいのだ」。では、どうなるのか?
「ある時点でアメリカの株価は、底値狙いの投資家たちを激しく煽るほどに安くなるかもしれない。それは、いま株価収益率(PER)が欧州の17倍に対して24倍まで上昇していることを考えると、そんな事態はありえないなどと主張することは難しくなっている。(下落しているのに、まだまだ高い状態なのだ)ファンドマネジャーには楽観できる理由などほとんどないというわけなのである」。
投資家の「センチメント」に注目して、これからの株式市場のさらなる下落を予想しているわけだが、もちろん、こうした感情に依存した議論というのは危ういものといえる。しかし、そうした脆弱な予想にリアリティをもたせているのが、しばらく終わりそうにないトランプ大統領のデタラメな経済政策なのである。そしていまや消費も落ちてきたというデータが発表になっている。ちょっとした風がふけば、いまのセンチメントは正常化されるという予想は、逆に困難なのかもしれない。
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