破裂に向かうAIバブル(6)エヌビディアの株価はまだまだ下落する

アメリカのハイテク株が下落して、日本の株式市場も連れ落ちしている。今回もその震源地はエヌビディアである。不思議なことに日本の経済ジャーナリズムは、そのことを正確に伝えていないが、欧米の経済ジャーナリズムは、エヌビディアについてかなり詳しい内情を報じつつ、今回の下落を分析している。もっとも、欧米も日本も8月末ころには、一部ではエヌビディアを称賛する記事を流していたけれども。

英経済紙フィナンシャル・タイムズ電子版9月4日付は「エヌビディアがアメリカの証券市場の売りを主導、(マニュファクチャー・セクターの)弱含みのデータが下落の恐怖をうながすなかで」を掲載して、いまやチップメーカーの雄となったエヌビディアの株価下落が、ハイテク関連銘柄の下落を呼び起こし、さらには日本を含む東アジアの株式市場に下落が波及したと伝えている。

S&P500が2.1%の下落、ナスダックが3.3%の下落、フィラディルフィア半導体インデックスが7.8%の下落。そして「チップメーカーのエヌビディアは9.5%下がって、2500億ドル分の資本が消えた。ブルームバーグによれば、証券市場が閉じた後もエヌビディアの株価は2.4%の下落を見せた。これは司法省が反トラスト法の違反の疑いで召喚状を送ったことが関係しているようだ」。

この司法省の召喚状について、これまで関心のなかった人のために簡単に説明しておくと、エヌビディアはチップを売るいっぽうで、そのソフトもセットにして売ってきた。このシリーズの他の記事で書いたように、こうした売り方は「ロックイン」を加速する可能性があり、それが競合他社に対する、違法なアドバンテージの行使ではないかとの疑いが生まれているわけである(左図はウォールストリート紙より)。

同紙は司法省の召喚について、この記事の最初の版では触れていなかったが、すぐに追加取材を加えて改訂版にしている。その部分によると、問題に通じているある人物によると、この召喚は「エヌビディアがAI用中央情報処理集積回路のトップメーカーであるパワーを、不利な立場にある競合他社に対して行使している」との疑いに基づくものであるという。

これに対してエヌビディアは、自社製品のメリットの結果であって、それはベンチマークテストにも反映されており、顧客も彼らにとっていちばんよい製品を買っているだけのことだとコメントしている。まあ、こういうしかないだろう。問題は具体的な強制が行われた証拠があるかどうかではないだろうか。いっぽう、いまのところ司法省はコメントを避けているとのことである。

冒頭で触れたように、8月下旬にはエヌビディアの収益は伸びたが、その上昇率が落ちたことから株価は下落し、経済マスコミの報道姿勢は2つに割れた。いっぽうではエヌビディアの収益は伸びても株価が落ちたことをもって、さらなる警戒が必要だととらえる記事があった。しかし、他方ではまだまだエヌビディアへの期待は高く、株価も上昇は止まらないと煽るものもあった。たとえば、日本の時事は8月29日付で「米エヌビディア、純利益2・7倍 旺盛なAI需要続く」を配信し、ウォールストリート・ジャーナルは9月2日になっても「アメリカは、ほんとに、ほんとに強気の株価市場」を掲載していた(上図はウォールストリート紙より)。

しかし、ウォールストリート紙は9月3日付では「経済停滞の恐怖が炸裂して証券市場は売りに」を掲載して、ナスダック市場とエヌビディア株の下落のすごさをグラフで見せてくれている。そのうえで、今週の金曜日には雇用統計が発表になるのでそれを見てから判断する必要があるとの評論家の言葉も載せた。「物語はまだ終わってはいない」。さらに、FRBが9月に金利を下げることになっていることに注意を喚起して「何人かの投資家たちは景気後退を阻止するためには、FRBの動きは遅すぎたかもしれない」と記している。

これまでのハイテク系バブルにおいては、中心となる(とみなされる)企業に不祥事が発覚して、急速にバブル崩壊が進展するというパターンが見られる。それが司法上の微妙な問題であっても、もめれば実力のある企業も窮地に陥り、バブル崩壊を加速するかもしれない。マイクロソフトですら、司法省と19州が反トラスト法の対象にしたが、当時の判事が新自由主義的思想の持主である法学者リチャード・ポズナーを和解人に指名し、ポズナーは和解に持ち込んだので分割を免れている。もちろん、その背後にはワシントンの意向もあったと思われる(写真はウォールストリート紙より)。

今回のケースにおいては、次の政権がいずれに転んでも、成長産業におけるスターは欲しいだろう。したがって、エヌビディアに対する法外で過度な巨額の罰金とか、ましてや分割などには至らないと思うが、問題はエヌビディアに対する市場の評価があまりにも大きすぎたことだ。その評価を満足させる業績を続けることは不可能である。市場評価のバブルが縮むことは間違ないだろう。

●こちらもご覧ください

破裂に向かうAIバブル(1)エヌビディアの高株価はいつまでもつか
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