破裂に向かうAIバブル(3)そもそも今回の株暴落は何から始まったか

日本の株価が急落して、下落を続けている世界の株価のなかでも、際立った崩壊ぶりを見せている。日本では円高と日銀の利上げがその理由だとされているが、円安とゼロ金利が日本をダメにしたという議論もあったことからすれば、必ずしもそれだけとは思えない。株価下落が始まったころにはアメリカが株価下落した煽りだと報じたマスコミもあって、それはエヌビディアに代表されるハイテク株の下落と雇用の停滞だとされていた。大きな株価ブームが生じるときはいくつもの「原因」が指摘されるが、では現実にはどうなのか。

「投資家たちは月曜日に世界市場が再開されたときの新たな変動については覚悟をしていた。アメリカ経済減速の兆候に対するFRBの対応があまりにも遅いので、FRBは金利の急激な引き下げに追い込まれることになるかもしれないと懸念していたからである」

英経済紙フィナンシャルタイムズ8月5日付は「巨大な恐怖が市場に新しい乱高下に対しての警戒をさせている」を掲載し、先週のハイテク株を中心とした激しい売りが、FRBの遅すぎる対応や、冴えない雇用統計の影響を受けて、さらに加速したと述べている。まず、エヌビディアやインテルの株価下落があり、それからFRBのダメな金融政策と期待をもてない雇用統計の影響が加わったというわけである。

日本の株価の週末から今週の始まりにかけての連続2000円を超える下落は、まず、アメリカのハイテク株の下落がアメリカの株価を下落させ、それが日本に及んだという見方が順当だろう。しかし、アメリカの場合にもFRBの対応や雇用統計がさらに追い打ちをかけたのと同様に、日本では日銀の金利引き上げと、それに付随して起こった過剰な円高が、いまや株価をさらに乱高下させているわけである。

すでに、英経済誌ジ・エコノミスト8月2日付が指摘していたように、ざっといっていま世界的な株価下落を生み出しているのは3つあると考えておくのが、まあ妥当なところであり、何かひとつが究極の原因だということはできないだろう。その3つとは、第一にAIへの過剰な期待がバブルを生み出してきたが、それがいよいよ終焉を迎えていること。

第二に、ハイテク株が下落を始めたことで、アメリカ経済そのものの好況に疑いが生まれたこと。そして、第三に、急激に日本の円が強くなったことで、日本に独特だった「円安とハト派的金融政策」という組み合わせも終わったと判断されたことで、日本の一過性だった株価急騰も終わりを迎えつつあるということである。そして、この3つは途中から相互に影響を与え合うから、どれが最初なのかということが分からなくなる。その影響の経路には金融システム以外にも心理的な要素が加わることはいうまでもない。

こうした金融経済と実体経済の下落の波及の現象の間に、確固とした因果関係を見出すのはいまやかなり難しい。たとえば、ある国の株価が下落して、他の国の株価に波及した場合ですらも、グローバル化が進んでいる国際金融市場においては、あまりにも複雑なヘッジが行われているので、一見、あり得ないような現象が起こる。

そもそも複数の市場でヘッジをかけながら投資するのが普通なのだから、動きがかなり異なる複数の市場で投資して、何か起こっても損害を最小限にできるようにするやり方が当たり前だと思われる。ところが、現実にはアメリカの金融市場で破綻が起こると、ヘッジなど行われていなかったかのように、世界の金融市場に破綻が何の障害もなく「感染」してしまうのである。

この「感染」という呼び方は、金融経済学の泰斗だったキンドルバーガーが、1998年のアジア金融市場の連鎖的崩壊を観測してから使うようになったのだが、このときにはアジアの金融市場の激しい崩壊はヘッジが十分にされていなかったことが原因だとされた。ということは、以降、アメリカの金融市場と他の国の動きの違う市場を使ってヘッジし、「感染」が起こらないようにするようになるはずだった。

しかし、それがあまり行われていないのだ。いや、むしろ、たとえばハイテク株などは世界中が同じ傾向を見せるようになり、かつてはヘッジに使えるといわれたビットコインの価格乱高下なども、ハイテク株と歩調を合わせるようになってしまっている。ハイテク株が集まるナスダックなどは、呆れたことにグラフにすると、ほとんどエヌビディアのグラフと相似形になってしまっていた。

金融機関は最も高い収益をあげようとするから、そんなことは当たり前じゃないかという人は多いと思うが、それではヘッジファンドや投資会社はどうやってヘッジするのだろうか。そもそも、ヘッジするテクニックを売物にしているはずの金融投資機関が、はじめからヘッジを放棄しているということにならないだろうか。何か他の金融機関にはない秘密の高度テクニックでもないとやっていけないはずだ。いまや金融市場の「感染」は、むしろ意図的な感染を予定しているようなもので、もう「接種」と呼ぶべきではないだろうか。そして、ヘッジよりも高いリターンを狙う投資法、つまり「接種」が、今回のバブル崩壊を巨大にしているのである。

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