仮想通貨の黄昏(11)冬の時代の仮想通貨は生き残れるか

仮想通貨の不思議さは、その根強い信仰心にある。いまは下落しているが、もう少し我慢していれば、また急上昇してくれるという信心が存在しているのだ。この信仰心があるかぎり、何かをきっかけに再び投機対象になることは否定できない。それはデーターだけ見れば株式市場と似ているが、実は、まったく異なる現象なのである。

英経済誌ジ・エコノミストはいま「2023年に向かう世界」というシリーズを掲載しているが、11月18日の記事は「仮想通貨はこの冬の時代を生き延びることができるか?」というものだった。もちろん、何をもって「生き延びる」とするのかで、話は大いに違ってくるが、2017年くらいの価格になるということなら、現在だってこの水準を超えている。

しかし、仮想通貨(暗号資産)を考えるには、優良株式と同じような発想をしてはならない。長期に成長した優良会社の株式の場合には、その企業の成長という裏付けがあるが、仮想通貨は市場でブームになるか否かという、そのときどきの世の中の危うい雰囲気だけが根拠なのである。そこでつぎのような思考ゲームをしてみよう。

100人のひとが「宇宙の壺」という100円の壺を100個ずつ手にしたとしよう。その後、この壺は宣伝もあって人気がでて90000個を追加で製造すると発表したところ、マスコミが注目して報道したので1個10000円にまで価格が高騰した。この追加分を勝ったのはあまりお金のない人たちで、たいがいは1人1個しか買えなかった。しかし、あるとき実体経済が下落したために引っ張られて1個5000円まで下落した。

このとき最初に1個100円で買ったひとたちの壺の総額は5000円×100個で500万円ということになる。元手が10000円だったのだから、依然として499万円の儲けである。しかし、追加製造して高くなってから買ったひとたちは5000円になっているのだから、当然、5000円の損である。馬鹿げたシミュレーションだと思うかもしれないが、これがビットコインを初めとする仮想通貨の現実である。

仮想通貨は最初のころは懐疑的な見方が強かったので、名のある金融機関は手をださなかった。しかし、多少の変動があっても以前の価格より高くなる傾向が顕著になってきたので、仮想通貨も顧客の資産運用のメニューのなかに繰り入れるようになった。アメリカのSECなど証券取引監視機関も規制を検討してきたが、お金持ちたちの資産運用の一部になってくると、あまり厳しいことはいわなくなった。そして今回の暴落を迎えたのである。

前出のジ・エコノミストの記事によれば、「ビットバーゼル」という仮想通貨イベントをマイアミで企画したスコット・シュピーゲルという人物は、「ホドル・アンド・ビドル」といまも言い続けているという。このホドル・アンド・ビドルというのは「ホールド・アンド・ビルド」のもじりで、仮想通貨の投資者たちのジャーゴン(隠語)であり、意味は「仮想通貨を持ち続けて資産をつくりあげよう」という意味らしい。

バンクマンフリードのFTXが破綻し、そのレバレッジの危険な構造も明らかになったのに、いまもそんなことがよくいえるものだと思うが、ちゃんと「理論」があるらしい。それは、これまでも仮想通貨は価格の上下を繰り返してきたが、いったん下落してもしばらく待てば、以前よりさらに高くなってきたというものだ。実際、ビットコインなどはその通りで、最初から大量にもっている者たちは、いまでも損などしていないし、「待てば海路の日よりあり」と構えていればいいのだ。

もちろん、先ほどの宇宙の壺のように5000円くらいの損ならあきらめもつくが、たとえば10000円のときに無理して1000個買ってしまった人は500万円の損失で、いまの日本のサラリーマンの1年分の平均収入より多いマイナスである。こういう人たちは笑って「待てば海路の日よりあり」あるいは「ホドル・アンド・ビドル」などと言っていられるだろうか。少なくとも資産形成のために、今後、仮想通貨を買おうとはしないだろう。

さすがに、今回、ジ・エコノミスト誌は「ホドル・アンド・ビドル」を推奨するとは書いていない。たしかに、中央銀行が金利を引き上げるのを抑制しそうだから、株価も上がるだろうし、それに引っ張られて仮想通貨も上がるかもしれない。「しかし、仮想通貨市場が大きくなればなるほど、仮想通貨市場がこれからも急成長するとイメージするのは、ますます難しくなるだろう」。

同誌は能天気な仮想通貨イベントの主催者たちとは対照的なビジネスマンにもインタビューしている。イベントのあったマイアミでデベロッパーを経営している人物は「いま誰もがちゃんと使えるものだけに集中して金を使う」と指摘しているという。つまり、いまのような経済下落の時期には、「ビドル」のために投機や詐欺にまみれた仮想通貨を買う者は多くないから、いまの仮想通貨の冬の時代は続くだろうというわけである。ただし、「リアルな使い道を見つければ救われるかもしれない」。

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