仮想通貨の黄昏(22)ステーブルコインによる米国の財政戦略は危険すぎる

ビットコインの価値が下落すればするほど、いわゆるステーブルコインへの期待が高まる。価値が安定しており、国際決済を安くできるというわけだ。しかし、ビットコインについての評価が神話だらけなのと同じく、ステーブルコインについても多くの伝説によって実態が知られていない。特に、ステーブルコインの繁栄はアメリカの繁栄になっても、他の地域の衰退につながることは知っておかなくてはならない。

英経済紙フィナンシャル・タイムズは12月10日付に同紙主幹格のマーティン・ウルフによる「世界がステーブルコインを懸念すべき理由」を掲載した。ウルフは経済ジャーナリズムのなかでは慎重派に属するといってよく、新しいブームには顔をしかめるのを常としている。もちろん、仮想通貨の救世主のように言われているステーブルコインについては、ヨーロッパの立場からみても、あまりに懸念があるとしている。彼の意見を聞いてみよう。

ステーブルコインが国際決済において、既存の方法に比べはるかに安いことは、ウルフも認めている。たとえば、トランプ政権のスコット・ベンセント財務長官が、ドル建てステーブルコインの普及をアメリカ国内だけでなく世界中に広げれば、アメリカの国債=財務省証券が低い金利であっても、世界中の人や機関に保有してもらえると主張している。しかし、それはアメリカの財務相にとって朗報でも、世界の国ぐにおよびその財務省にとってはそうではないとウルフは論じる。

彼はロンドン・ビジネススクールのエレーヌ・レイの次のような指摘を引用している。「ヨーロッパを含む世界の人々にとって、決済目的で米ドル建てでステーブルコインが広く採用されることは、グローバルな主体による通貨発行益の民営化に等しい」。つまり、それぞれの国家がもっている通貨発行益を、ステーブルコインの発行元に渡してしまうような軽率な行為だと懸念しているのである。

ウルフは指摘する。「これはアメリカによる新たな略奪的行為となるだろう。あるいはアメリカがもっとコストの低い決済システムを作るとか、より財政的に余裕のある政府へと移行するという選択肢もあるかもしれない。しかし、いずれの場合でも、その可能性は低いだろう」。アメリカ政府がそんなフェアで気の利いたことをするとは思えないからだ。すくなくとも、トランプ政権においてはまったく期待できない。

スタンダード・チャータード銀行は、ステーブルコインが2028年までに2800億ドルの規模から急拡大して2兆ドルに達するだろうと予測している。ステーブルコインの未来はこうした数値だけをみれば明るいように見える。しかし、「発行者、様々な犯罪者、そしてアメリカ財務相以外の人も、こうした未来を歓迎してよいのだろうか。答えは明らかにノーだ!」。確かにステーブルコインはビットコインなどに比べれば安定しているかもしれない(これすらも、すでにこのシリーズでそうでないと指摘してある)。しかし、その安定性は現金や銀行預金のドルと比べると欠点となる危険がある」

IMF、OECD、国際決済銀行(BIS)などはいずれも深刻な懸念を表明している。BISは仮想通貨によって通貨が「トークン化」つまり記号化されることは歓迎している。記号化された価値は集約管理しやすいからだ。しかし、そうした利点をはるかに超えて、BISはステーブルコインが「単一性、弾力性、完全性という3つの重要な基準」を満たせないのではないかと強い懸念を示している。

単一性とは、あらゆる形態の通貨がつねに額面価値で交換可能であること。弾力性とは、あらゆる規模の支払いを滞りなく行うことができること。そして完全性とは、金融犯罪やその他の違法行為を抑制する能力を意味する。これらすべてにおいて、これまで中心的な役割を担ってきたのが中央銀行やその他の公的な規制機関であった。しかし、いまのステーブルコインは(民間機関がいくら頑張っても限界があるから)、これらの3つの要件すべてについて、はるかに能力が劣っていることは明らかだ。

「それは不透明で、犯罪者に利用され、価値も実は不確実だ。先月、S&P国際格付けは、ドル建てステーブルコインであるテザーのUSDを弱いに格下げしている。これは信頼できる通貨ではないというわけである。これまでも民間が発行する疑似通貨は危機においてしばしば破綻してきた。ステーブルコインも同様の事態に陥る可能性がきわめて高いのである」

たとえば、仮にアメリカがステーブルコインをさらにバックアップして、アメリカの通貨支配と巨額の財政赤字の補填に役立てようとしているとしよう。そうなったとき、他の国はどうすべきだろうか。「答えは簡単で、自国の通貨の防衛をしなくてはならない」。アメリカは自国の通貨と財政を最優先することは自明であり、それに対して他の国の通貨と財政はその生贄にされてしまうだろう。

「アメリカ人はいまや、巨大テック企業のモットーである、素早く行動し物事を破壊せよ、にすっかり夢中になっている。お金の場合には、これはきわめて危険で、破壊的な結果をもたらすことになる。新しい技術を活用するのはいいことのように見える。しかし、安定性という偽りの約束をして、無責任な財政政策を加速し、犯罪と腐敗への扉を開くシステムは、世界が必要としているものではない」

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