仮想通貨の黄昏(14)トランプの煽りでビットコインが10万ドルを超えた
仮想通貨の代表であるビットコインがついに10万ドルを超えた。これはもちろんトランプ次期大統領が「ビットコインで強いアメリカを再び」と煽っているせいだが、あまりにも異常というしかない。しかし、アメリカの投資家たちは沸き立って、プロはトランプの在任中にどれくらい儲けられるか皮算用をはじき、アマチュアはいまからでも儲かるのではないかという錯覚に陥っている。
英経済紙フィナンシャル・タイムズ12月5日付は「トランプ時代への期待が膨らんでビットコインは10万ドルに達した」を掲載している。「史上初」とか「ドラマチック」とかの言葉が飛び交っているが、「投資家たちはアメリカの次期大統領ドナルド・トランプの偉大なる政治的かつ制度的な支援に賭けている」と書くことも忘れていない。
「世界で最大の仮想通貨はトランプが11月に大統領選に当選してから40%もの上昇をとげた。共和党も前もってアメリカを『世界のビットコイン大国』にすると約束していた」。それだけではない。トランプは12月4日、SEC(証券取引委員会)の委員長に、仮想通貨の推進者であるポール・アトキンスを任命すると明言した(上の写真はMSNBCより)。
これまでSECは金融界の圧力のもと、仮想通貨の規制を緩和してきたが、それを推奨するような姿勢は示さなかった。アトキンスが委員長に就任すれば利益相反の事態が生まれるだろう。同紙は仮想通貨の調査でしられるジェフ・ケンドリックの言葉を引用している。「これで仮想通貨への熱狂は、ほとんど天井知らずになるだろう」。当然ながら、同紙は全面的に賛同しているわけではない。(グラフはフィナンシャル紙より)。
これまでの仮想通貨の歴史を振り返れば、このニセ通貨が膨らむにつれ、価格下降時の損害も大きくなってきたし、関連の犯罪の規模も大きくなった。2022年にFTXが崩壊したことで仮想通貨市場はパニックに陥ったが、このときビットコインの価値は、なんと1万6000ドルまで下落したものだった。FTXの経営者バンクマンフリードは、25年の刑で刑務所に入ることになったので、この時には、仮想通貨に対する警戒はかなり強いものになったと思われた。
しかし、いまや仮想通貨関連会社の経営者やトレーダーたちは「黄金時代」の到来を大声で予告している。いうまでもなく、トランプ政権下の世界において、仮想通貨産業はさまざまな規制から解放されて、大量のマネーがこの仮想通貨産業にどっと流れ込むことが明らかになったからである。
以上がフィナンシャル紙の概要だが、有望な資金運用の手法や物質が登場したときには、経済紙や経済誌は歓迎する傾向が強くなるものだ。しかし、このあまり長くない記事には、やや陰りのようなものがすでに漂っている。なぜなら、それはあまりにも露骨な「トランポノミクス」の作為による「黄金時代」のでっちあげだからだ。トランプの経済政策を「風聞、煽り」を使うフェイクだと指摘したのはエール大学のロバート・シラー教授だったが、この元大統領で次期大統領の男のしていることは市場への違法な介入ではないのか。それは市場を活性化させているときは喜ぶ者も多いかもしれない。しかし、いったんトランプがいまの勢いを失えば、急速に仮想通貨市場もまた冷え込む危険がある。そのとき痛手をこうむるのは、おそらく若い新規参入者たちだ。
これまでこのシリーズで何度も繰り返してきたが、仮想通貨がいまのままのかたちで公的通貨に出世するなとどいうことはあり得ない。通貨当局が公的通貨を、仮想通貨がもたらした技術を採用して変えるにしても、それは当局の支配が強化されるかたちでしかありえない。また、ビットコインに典型的だが、すでに大量のビットコインを手にしている者たちは、その多くがビットコインがまだ低価格だった時代に購入している。彼らのほとんどは多少の下落にも耐えられるリッチたちで、若い参加者がなけなしの金を投入したのとはまったく異なる。
ここでよく知られたビットコインの所有構造を示す表を見ておくのも無駄ではない。「ビットコイン・リッチ・リスト」(bitinfochart.comのBitcoin distribution)といわれるもので、金額で示した所有量の上位から何%で全体の何%を占めているかを示した表だ。ちょっと読み取りにくいが、たとえば上位0.03%で占有率は60.57%に達しており、これが上位1.55%で見るとなんと92.93%にもなっている。こんなひどい「ねずみ講」の構造の市場に、これから参入しようとするのはただの馬鹿である。特に資金量が少ない者にとっては、単にドブになけなしの金を捨てる行為だろう。
こんな金融市場というのは「不健全」という言葉を遥かに超えて、ほとんど「ペテン的」なものだと考えるべきだろう。金融界はこうした構図を知っていて、小金持ちたちに資金運用のさらなる美味しそうな選択肢を与えて、自分たちは手数料を得るためにビットコインの規制緩和に賛成なのである。そして今回の急伸は、トランプがいうように「アメリカを再び偉大な国にする」のではなく、たんに「アメリカをリスクの塊にした」だけなのだ。それはこれから数年の間に明らかになるだろう。
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