仮想通貨の黄昏(12)ビットコインを売り抜けたピーター・シールから学べること
ビットコインが暴落するなかで、見事に売り抜けたファンドや投資家もいた。それはきわめて希な存在といってよい。しかし、彼らの行動を見ることで仮想通貨がいかなるものか、そして投資という行為には何が肝心なのかが明らかになる。ここで紹介するのは、ファウンダーズ・ファンドのピーター・シールという、したたかな投資家のここ数年の投資行動である。
最近、経済ニュースを見ていると「ビットコイン急騰」とか「仮想通貨の冬の時代は終わった」とかの見出しを見かけることがある。しかし、多少の上昇は見られるものの、それがこの数年の暴落に比較できるような急騰なのかといえば、とてもそんなことはいえない。改めていま確認しておきたいのは、こんな状況の中でも、しっかりと稼いだ者がいるということ、そうした人物は夢見がちな人間などではないということだ。
英経済紙フィナンシャル・タイムズ1月19日付は「ピーター・シールは市場暴落の直前に8年続けたビットコイン投資を手じまいしていた」という記事を掲載している。「ビットコインには未来がある」と発言し続け、ビットコインに投資しつつ、ブームを煽ってきた投資家が、実は、暴落の直前にちゃんと売り逃げていたという内容だ。やれ、やれ、いつものことだが、したたかな投資家というのは、いつもこれだと思わざるをえない。
シールは「ファウンダース・ファンド」というベンチャー・キャピタルの共同運営者として活躍しているが、このファウンダーズ・ファンドは2014年からビットコイン投資に急速に投資し、一時は資金全体の3分の2をビットコインに賭けるといった状態だった。しかし、昨年2022年5月にビットコインの暴落が始まる前には、所有していたビットコインのほとんどを手放していた。その間、同ファンドは180億ドルの純利を手にし、出資者にも130億ドル配当したと同紙は指摘している。
あきれるのは、ビットコイン・ブームのとき、JPモルガンのジェミー・ダイモンなどがビットコインについて「詐欺の疑いがある」と懐疑的な発言を行った時には、すぐに激しく批判してビットコインはこれからも伸びていくし、これは経済の未来を開くものだとか煽っていた。ところが風向きが変わったと勘づくと売りに転じた。この時、自分たちが売りに転じたことを公表しないようにした。これはもちろん利益確保のためのテクニックといえる。
ビットコインは2009年に生まれ、2014年には1単位あたり750ドルだったものが、ピークの2021年11月には6万5000ドルにまで上昇したが、昨年2022年11月には1万5500ドルまで暴落した。シールの行動はまるでこうした上下の動きをあらかじめ知っていたかのようだが、上昇しているときにはいっしょになって煽り、下落の兆しが見えたら口外しないで売り抜けるというのが、ありふれた投資の極意である。これは投資というものが世界に登場してからの鉄則である。ただし、それを実行出来る人は希である。
シールはトランプ元大統領の熱心な支持者として知られているが、いまもそうかは分からない。彼はPayPalの共同出資者であり、フェイスブックへに最初に投資したことでも有名だった。彼のファウンダーズ・ファンドは最近はイーロン・マスクのスペースXやアプリ企業Lyftの株式を買ってきた。ごく最近はOpenAIに投資し、ChatGPTを支援しているといわれている。
広い視野で投資先をさがし、これぞと思ったところに派手に集中し、そこがやばいと思ったら躊躇なくこっそり売り抜ける。これこそ投資家の資質だが、そんなものを持っている人間が、この世に大勢いるとは思えない。それなのに、若い人にのなかには、自分にそういう才能があると思い込む者が意外に多く、それが本人と周囲の不幸の元となるのだ。
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