仮想通貨の黄昏(13)トランプ・コインと化したビットコインの運命
ビットコインが急騰してついには最高額に達した。その大きな要因が、ビットコインを推奨していたトランプが、大統領に劇的な再選を果たしたからだ。トランプは仮想通貨にかんする規制を緩和し、懐疑的な規制機関のトップを変えると主張してきた。しかし、仮想通貨にいまの価格についての何らかの根拠があるのだろうか。そしてまた、トランプ次期大統領はこれまで一貫して仮想通貨を評価していたのだろうか。
まずは事実から述べておこう。11月11日、米共和党が議会の支配を決めつつあるなか、ビットコインの価格は10%の上昇をみせ、1ビットコインは過去最高の8万9000ドルに達した。この数値は、ビットコインが10月中旬から計算すると、なんと45%もの急騰を見せたことを意味する。もちろん、ビットコイン以外の仮想通貨も急騰し、アメリカはまるで仮想通貨王国でもあるかのような様相を呈している。
英経済誌ジ・エコノミスト11月12日付は「なぜ仮想通貨への熱狂が新しい高みに達したのか」を掲載しているが、その原因については、なによりも仮想通貨の強い支持者であるトランプが大統領選で勝利をおさめ、さらには共和党が上・下院を制したことを挙げている。トランプはオンライン上で「アメリカを世界のビットコイン超大国にする」と述べ、また選挙戦の最中の7月、熱狂的な聴衆を前にして、「SEC(証券取引委員会)のゲーリー・ゲンスラーを首にする!」と絶叫していた。
ゲンスラーのSEC委員長の任期は2026年までだが、大統領が変わればSEC委員長は辞任することが通例となっているので、おそらく辞めることは確実だろう。彼は「仮想通貨の世界を詐欺師と泥棒であふれている」と描写したことがあり、この仮想通貨にとっての天敵、あるいは極悪人がいなくなれば、仮想通貨の世界は繁栄することになると思っている人間も少なくないわけである。
「ゲンスラーの考えでは、多くのデジタル通貨は実際には証券に相当し、その規制はSECにある。したがって、発行、取引、販売する企業はSECの規制に従わねばならない。いっぽう、仮想通貨を資産拡大の手段と考えている人たちは、仮想通貨はコモディティなのだから、CFTC(商品先物取引委員会)によって、証券よりはずっと緩い規制を受けるべきと考えている」
まあ、さすがに中央機関によって管理される通貨になるとかいう幻想を信じている人間はほとんどいなくなったが、運用することで一攫千金を狙おうとする純朴な若者とか、大金持ちに運用を持ち掛けて自分も手数料を稼ごうとする業界人は,いまも大勢いる。そして少なくともいまや、仮想通貨はコモディティとして認められるようになっており、それこそ詐欺師や泥棒を輩出しながら、投資の対象とされ続けてきた。
ビットコインは本物の通貨となると信じ込んでいる人はほとんどいないとはいえ、2022年から2023年にかけての大暴落にもかかわらず、「持ち続けていれば最終的には高騰する」というフレーズを合言葉に、保持している人間は多い。しかし、再び高騰する可能性はあっても、それで資産を膨大なものにできるのは初期に大量に安い価格で所有した人に限られる。なぜなら、ブームに煽られ後追いで購入した者は、高価格で買うことになるので、暴落の損失の危険のほうがずっと高いからである。
さて、トランプという人物は、はたして仮想通貨の支持を続けてきたのだろうか。もちろん、そんなことはない。今回も大統領選で仮想通貨の保有者たちを煽ることが、自分の支持率を高めると見込んだから、あたかも仮想通貨の守護神であるかのように振舞っただけのことである。それほど昔ではない2021年、トランプは激しく仮想通貨を批判し、「ビットコインなどはドルに対する詐欺である」と述べていた。ビットコインでアメリカを超大国にするという発言より、こっちのほうがまだ真実味があったと私は思う。トランプ・コインとなったビットコインは、その繁栄だけでなく没落も共有することになるだろう。
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