TPPの現在(6)日米貿易交渉の中間決算

 今回の日米貿易交渉が、包括的日米FTAの前哨戦であったことは言うまでもない。そしていつものように、アメリカはこの交渉は継続交渉であることを強調して、今回の勝利した前哨戦から堂々と凱旋していったのである。

 そのなかで、今回が初めてではないが、日本側の当事者である諸団体代表の反応というのがどうしても納得のいかないものだった。まず、TPP12であったなら実現していたはずのアメリカ側の自動車関税と自動車部品の撤廃が「袖にされた」というのに、中西経団連会長の発言というのが次のようなものだった。

「米国が関税引き上げという手法で自由貿易にもとるような動きも厭わない中、ぎりぎりの妥協を迫られたこともあったと思うが、それを乗り越えて全体的にバランスのとれた内容になったと評価している」

 いったい、どこのバランスがとれているというのか! とはいえ、自動車関税の2.5%については奇妙なことに、最初から日本の自動車工業界の切実な声というのが、あまり聞こえてこなかった。とんでもない25%の追加課税で脅されていたため、それがないのでほっとしたというのが本音なのだろう。

 また、この2.5%は現地生産などでかなり克服しているだけでなく、為替レートの変動に比べてもそれほどの数値ではなくなっているという話もあった。しかし、それにしてもアメリカの「自由貿易にもとるような動き」にたいする批判のひとかけらくらい聞きたいものだった。

 私が首を傾げたのは、何よりも全国農業協同組合中央会の中家徹会長の言葉に対してだった。中家氏は不思議なことに次のように述べたのである。

「公表された合意内容は、昨年9月の日米共同声明の内容をふまえた結論を得ることとなったと受け止めている。特に、コメについては、米国への関税割当枠の設置が見送られることとなり、生産現場は安心できるものと考えている」

 私は前会長の奥野長衞氏が就任のさいに「黒子に徹したい」と述べたことに警鐘を鳴らしてきた。いかに自民党に「弾圧」か「脅迫」に近いやりかたで圧力をかけられているとはいえ、かりにも全中は農業界の圧力団体である。圧力団体の長が「黒子に徹して」どうするというのか。こんな腰の引けた姿勢では嘗められるに決まっている。

 同じ様な感想を、不幸なことに今回も中家会長にもたざるをえない。「あそこまでやられていて、なにを行儀よくしているんだ」と言いたい気持ちである。いや、いまのトランプ大統領の荒れ具合を見れば、今回くらいですんでよかったのだ。これならTPP12と同等か少しましではないのか、などというのかもしれない。

 しかし、そうではない。たしかに、コメは米国への関税割当枠の設置が見送られた。また、一部のマスコミが報道した牛肉輸入に米国枠を新設するようなことはなかった(この話は後出)。けれども、アメリカが想定している日本向け農産物輸出の総額は、それがトランプのツイッター上とはいえ70億ドル(上の写真)だというのだ。TPP12のときですら、米農務省の「法外」といわれたシミュレーションでも、日本が輸入する農産物は58億ドル(この図表)だった。しかも、これは11カ国分をすべて引きうけての数字だったことも思い出すべきだろう。

 そもそも、今回の日米貿易交渉は、アメリカのトランプ大統領が自らTPP12を脱退したことの「尻拭い」なのだから、交渉において日本は優位にあったどころか、まともならアメリカにペナルティ(罰)を与えてもいいような話だ。それがあれこれ脅されて、最初から「TPP並みにしてくだせえ、お代官さま」という感じの腰の引けた交渉をしてしまった。それを経団連も全中もまったく気にしていない風である。

 そんなことだから、ならず者同然のトランプの「ディール」だか「スティール」だかにしてやられてしまうのである。このならず者に、トウモロコシというお土産あるいは追い銭まで持たせている。「茂木敏充担当相は、ほとんど何もしていない」という批評が実にリアリティのある話として聞こえるわけである。

 付け加えておくと、交渉中の9月20日にアメリカは牛肉の低関税枠24万トンを要求していて、それが決まっているようだとの報道があった。手元にあるのは同日0時30分の日本経済新聞電子版と、同日8時30分の朝日新聞電子版のコピーである。日経のほうは、さらに半日くらい前に目にしたような気もする。

 この報道は「誤報」だったわけだが、その後、両社ともアフターケアがないのはどうしたことだろう。まあ、それはともかく、この報道は両社ともかなり内容のある記事であるところをみると、確証を得ていて資料も手にしていたのではないかと推測される。

 おそらく、ガセネタだったのだろうが、それはどこの「筋」のものなのだろうか。アメリカ側か日本側か。いずれにしても、冒頭に述べた業界の大物たちが、あたりさわりのないコメントを出していることと無関係ではないように思えてならない。

 この記事のタイトルには「中間決算」と入れている。まだ、ハッキリしたことが分からないだけでなく、この日米FTAはアメリカ側の言い分では継続中である。そしてそれはいつものように、アメリカ側がさらに満足できる、新たな獲物を得るまで続く。本来、大声で批判すべき人物たちの遠慮だらけのコメントは、もう聞きたくない。しかし、交渉はまだまだ続く。

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