トランプ経済を乗り切る(4)日米がもめるとアメリカ軍がアジアからいなくなる?

アメリカとの関税交渉が座礁している段階で、石破茂内閣は参議院選挙に臨まなければならない。しかも、自民党やその応援団のなかには旧安倍派が多く、石破が選挙戦で口にした言葉を大げさにあげつらって、石破が選挙に大敗することを望むような連中も多い。しかし、そもそもおかしな交渉を、世界中に強制しているのはトランプ大統領であって、石破首相が焚きつけた交渉でもなければ、日本がアメリカに対して不法な(トランプやUSSの労働組合が主張したような)「盗み」のような貿易をしてきたわけでも、もちろんないのである。

その点、どう考えてもおかしい記事が、英経済紙フィナンシャルタイムズ4月14日に載った。いまのアメリカと日本との経済交渉は、「この25年間で最悪の危機への転落を象徴するもの」であって、トランプが言ってきたことに「適切に対応できない日本の姿勢は、安全保障、貿易、通貨問題が複雑に絡み合っているので、不安定化を招くリスクを高めている」と「日米双方の高官」が述べているというのだ。本当かね? 日本側の実名を挙げて欲しい。

そもそもこの記事は、同紙で日本を担当しているレオ・ルイス記者が中心になって書いているのだが、この記者は常に日本の社会そのものが他の国といまも異なるから、何かと問題が起こるのだといいたげに記事を書く記者で、まるで1990年代の欧米経済ジャーナリズムから抜け出てきたような、古色蒼然の主観の持主であることも関係しているだろう。繰り返すが今の世界とアメリカとの軋轢は、石破が興奮しやすいために生み出した問題でもなければ、日本がいまも問題がずぬけて多いからアメリカとも揉めているのではない。

問題の核心はあくまでトランプなのであって、それは、フィナンシャル紙にマーテイン・ウルフが何度も書いているのに、この記者は自分が寄稿している新聞も読まないらしい。同紙主幹であるウルフによれば、トランプはまるで独裁のようなやり方で、いまアメリカの政治を動かしており、ミームコインを発行して資産を膨らますなど家族ぐるみで汚職を公然と繰り返し、異常な政策をつぎつぎ違法な大統領令で行い、そうしたでたらめな政治と経済政策の当然の結果として、アメリカの優位性を破壊していると書いているのである。そんな国になってしまったアメリカとの経済交渉について、同じレベルに日本をおいて論じることのほうが、よほど不実かトランプと同じくらい異常というべきだろう。

しかも、ご丁寧に、安倍晋三とトランプとの親しかったとされている関係を、いまの石破首相と比較して見せて、安倍はあんなにうまくやったのに、それに比べて石破はなんと拙劣だろうと、汚いところを誇張して見せたがる下劣なジャーナリズムのように、いまの日本外交の不調を際立たせている。こういうレトリックは風俗報道にでも使えばよいのであって、いまの本当に深刻な国際関係問題に応用すべきではない。そもそも、安倍がトランプに受けが良かったのは、なんでもいうことを聞いたからにすぎない。

それは日米貿易協定で露骨に示されたことだが、最初から日本の外務省はトランプにゴマをすって、何事も問題化しないようにした。たとえば、農業のほうで妥協した見返りとして当然あってよいはずの自動車部品の関税撤廃要求を最初から放棄していた。日本の外務省の担当者は、日本の記者団を前にして「これはトランプ大統領にとって微妙なところなのでご理解ください」と言っただけで、日本の記者団の誰一人として質問する者がなかったし、そのことを報じた日本のマスコミはなかったのである。このときの交渉は、日本のTPP賛成派の評論家ですらも怒ったひどいものだった。現地では「ゴマすり演説」と笑われていた安倍の米議会演説も同じことで、アメリカの政治家たちが喜ぶことをてんこ盛りにした原稿を、アメリカのその筋のライターに書いてもらって、それを暗記していた。

この類は日本のいたるところに棲息していて、アメリカや安倍晋三の名がでてくると、何か儲けの口はないかとうろうろ捜し回る。先日も、石破首相がトランプのやり口を思い出して瞬間的に切れたのか「なめるんじゃない」と口走った。そうしたら、日本の元安倍取り巻きのひとりが、そんなことをいうと、もっとトランプにイジメられるぞ、とんでもないことを石破はしでかしたと半狂乱になった。報復で50%の関税だぞとかわめき、まるでトランプの威を借るタヌキみたいだった。しかし、石破がいわないなら俺が言っていたと思っている人間はこの世界に充満していて、欧米で取り上げたメディアは数えるほど。しかも小さな扱いだった。トランプだってこの程度の悪口はいくらでもつくから、石破の遠慮がちな溜息など、気にとめる暇もその気もない。騒いだのは物欲しげなタヌキだけだった。

まあ、そうはいっても、このいまの日米の混乱はやはり大きな問題を顕在化させてしまうことになるということは間違ってはいない。それはこうした軋轢が常態になっていけば、当然、日米安保の見直しが出てくる可能性があるということである。もちろん、安保は継続することになるにしても、その内容はもはや日本人が安穏としていられるものではなくなる。たとえば、台湾有事のさいにたとえ日本が攻撃されたとしても、それに反撃する必要がないことが明確にされてゆく可能性があるうるだろう。それどころか、アメリカが「アメリカ・ファースト」の思想の延長線上で、台湾有事があっても「それは当事者たちの判断にまかせる」と宣言して終わりという方向に向かうこともありうるということだ。

この点については、小泉進次郎がアメリカの大学を「卒業」したあとに就職した戦略国際問題研究所(CSIS)で、進次郎と「一緒に」論文を書いてくれたと言われるマイケル・グリーンが「日本人はアメリカをよく知っているので、トランプは気候変動ではなく竜巻にすぎないと分かってくれています」とコメントしているのは知日派らしいコメントだが、そう楽観的でない政治学者もいる。慶応大学教授の神保謙で、彼はアメリカの日本との関係が、いまの状態をきっかけとして大きく変わる可能性もあることを示唆している。日本や台湾が困窮したとき、アメリカはそこにいてくれるだろうかという問いにたいして、同教授はほぼ次のような意味のことを述べている。

「アメリカをどれだけ説得して我々の窮地を助けてもらうか、それが我々に残された唯一の選択肢です。しかし、もうひとつの可能性は、いまやひとつながりの出来事が起きているというものです。トランプ大統領はウクライナやイランと合意に取り付け、さらに中国とも包括的な合意を結ぶことになる。もし、そのようなことが起こって、その先に台湾の問題が起こったとしたら、まったく別のいくつかの対応を考える必要があるでしょう」

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