足立紳監督『春よ来い、マジで来い』を語る;内海陽子が迫る最新小説と『ブギウギ』の背景
足立紳監督『春よ来い、マジで来い』を語る;内海陽子が迫る最新小説と『ブギウギ』の背景
足立紳監督インタビュー 映画評論家・内海陽子
いま放映中のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』の作者として注目されている足立紳監督に、このサイトで映画を担当している映画評論家の内海陽子さんが『キネマ旬報』2023年12月号でインタビューしています。足立監督の最新小説『春よ来い、マジで来い』の創作秘話を中心に監督の青春に迫るものですが、インタビューを紹介するとともに、内海さんが本サイトに寄稿した足立監督作品評も案内したいと思います(文責・サンイースト企画)。
〈表紙が取れてだいぶくたびれた映画雑誌『R』を手に足立紳監督は現れた。14歳の足立 紳の映画評が載っているページを見せながら「親以外の大人の人に初めて褒められた」と彼 ははにかんだ。「掲載誌をお守りにしてきました」。40年近く前、『R』誌の「読者の映画 評」欄の選者を務めていたのはわたしで、足立紳が懸命に書いたと思しき原稿用紙を、何度 もひろげたのをよく覚えている。その文字はやせっぽちの少年を連想させたが、目の前の彼 はもう立派な大人になっていた〉
こうした、お二人の深い縁から始まるこのインタビューでは、足立監督の少年時代が反映された『弱虫日記』と、売れないシナリオ作家とその妻を描いた『喜劇 愛妻物語』の間をつなぐ作品ともいえる『春よ来い、マジで来い』を中心に語っています。内海さんはこの作品を次のように述べています。〈このたび上梓した『春よ来い、マジで来い』は、30歳を迎えたころの足立紳と同居人たちをモデルにした青春群像小説だ。仕事がなくて嫉妬に苦しみながら、恋に身悶えする主人公・大山武志の姿を、 微に入り細を穿ち、深刻なようでとぼけた調子でつづっている〉。足立監督自身は次のように語っています。
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《永島慎二の漫画『若者たち』や市川準監督『トキワ荘の青春』(96)のやさしい雰囲気が 好きで、そういう世界へのオマージュです。“トキワ荘”と違って才能のない人ばかり集まっているから、大山が『世に出る可能性が最も高いのが俺であるというのがイタすぎる』と 書きましたが……》。いざ舞台に立つと逃げ出してしまう芸人の卵、他人の作品に対しては鋭い指摘ができるのに自分の作品が書けないシナリオ作家志望の女性、キャッチボールばかりやっている監督予備軍の男などが登場して、もうひとつの「トキワ荘」を盛り上げます。
〈大山はウジウジしているのだが、けっこう女性を惹きつける。彼を彩る女性たちの中で、 わたしが気に入ったのは美樹だ。このキャラクターに足立紳の妻、晃子さんのイメージを感 じ取るのだが、小説に彼女のイメージは入っていないそうだ。しかし長年共に暮らすうち、 晃子さんの影響を受けた女性像が足立紳の“女性性”として育ち、それが形を成すということはないだろうか。ハキハキものをいうさっぱりした性格のようでいて、実は微妙な感情を隠し持っているというあたり、とても立体的で情感のある女性像である〉
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足立監督と内海さんとの深い縁はもうひとつあります。足立監督は、『セーラー服と機関銃』『魚影の群れ』『風花』などで知られる相米慎二監督の弟子だったことがありました。内海さんは相米監督が活躍していた時代に、多くの相米作品評やインタビューを発表しています。足立監督の小説の中では〈大山の夢の中に「あの人」は“ハゲタコ入道”として現れ「笑っているようで目の奥は笑っていない鋭い目つきで」「俺はなぜか正座してハゲタコ入道の前に座っているのだ」と足立紳は書く。……じつはわたしも、相米慎二に関して足立紳と似たような夢を何度か見た。夢の中で相米慎二は元気なのだが、無言でわたしを見て「ちゃんとやっているか」というような厳しい目をするのである。目覚めて冷や汗が出たり、へこんだりした〉
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いっぽう、足立監督も当時を思い出しつつ、次のように語っています。《月刊『シナリオ』とかで内海さんが相米さんにインタビューした記事を読むと、相米さんがあまりしゃべらないので、内海さんは必死に食い下がっているなあと思いました。実際、相米さんは言葉が少ないので、そのぶん、自分で考えなくてはならない。ぼくに対してはつっけんどんなところはなく、とてもやさしいのですが、一緒にいると考えなくてはならないというプレッシャーに押しつぶされそうになる》。
このインタビューには相米監督の貴重な思い出が出てくるので、映画ファンには見過ごせないと同時に、足立監督のこれからを占うさまざまなサジェスチョンが散らばっています。たとえば、足立監督が以前口にした「キラキラ映画」の企画はどうなるのでしょうか。おそらく、この『春よ来い、マジで来い』も映画化されると思われ、いま放映中の『ブギウギ』制作の舞台裏を想像させる貴重な情報もあります。繰り返しになりますが、このインタビューは『キネマ旬報』2023年12月号に掲載されています。ぜひ、手に取ってお読みください。
内海陽子プロフィール
1950年、東京都台東区生まれ。都立白鷗高校卒業後、三菱石油、百貨店松屋で事務職に従事。休みの日はほぼすべて映画鑑賞に費やす年月を経て、映画雑誌「キネマ旬報」に声をかけられ、1977年、「ニッポン個性派時代」というインタビューページのライターのひとりとしてスタート。この連載は同誌の読者賞を受賞し、「シネマ個性派ランド」(共著)として刊行された。1978年ころから、映画評論家として仕事を始めて現在に至る。(著者の近著はこちら)
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