仮想通貨の黄昏(10)FTX破綻の次にやってくるのは何か?
仮想通貨取引所のFTXが破綻して、ますます仮想通貨の価値下落が進んでいる。バブルには金融の「天才」が現れると言われるが、まさにバンクマンフリードはそう見なされた。そして、この天才がやるのは、常にレバレッジを使った資産の膨張であることは、歴史的にみていつも同じなのだ。にもかかわらず、プロの投資家だけでなく、一般市民も「新しい時代が来た」と錯覚して投資するのである。
英経済紙フィナンシャルタイムズ電子版11月21日付は、FTXの破産法第11条の申請書によると、巨大仮想通貨グループの破綻にともなうサム・バンクマンフリードのビジネスが生み出した負債は、大口の投資者に対してだけでも30億ドルを超えると報じている。もちろん、これは今の段階での負債であり、これからもっと増える可能性もある。
「バンクマンフリードによって創業されたFTXと関連企業は、11月20日に大口の出資者50人のリストを提出した。この出資者たちはすべて顧客であり、全員が2000万ドル以上、そのうちの2人は2億ドル以上の(バンクマンフリードへの)債権を持ったことになる。彼がかかわった企業すべてのバランスシート上の負債は、最初に提出された第11条申請書によれば100億ドル以上と推定されており、100万人以上の債権者がいると思われる」
バンクマンフリードの栄光と転落の物語は、ようやく日本でもリアルなものが書かれるようになったので、細かいことはネット上で検索していただきたい。ここでは簡単に紹介してしまうが、彼は仮想通貨の取引所であるFTXを営業するだけでなく、別会社でFTT(FTXトークン)という独自の仮想通貨を発行した。このFTTを使えばFTXでの取引手数料が割引されるだけでなく、FTTを担保にして保有額の何倍もの仮想通貨取引ができるという、危うい仕組みを作り上げたわけである。
これはバブルの歴史をひもとけば「いつもの手口」であり、ジョン・ガルブレイスが『バブルの歴史』のなかで「バブルの末期には金融の『天才』が現れる」と指摘するとともに、その手口は常に「レバレッジをかける」ことであると指摘したことに完全にあてはまる。ここには何も新しいことはなく、天才でもなんでもないのだ。FTXだけならただの手数料稼ぎにすぎないが、それとFTTを組み合わせることで、巨大な金額の取引を生み出し、そして、FTTを使って現実の資金をつくり、企業の乗っ取りを企て、政治家たちを買収し、自社の広告に超有名人を採用して、仮想の信用を高めたわけである(図版はThe Economistより)。
今回もまた、欧米のマスコミは、2000年に崩壊するITバブルのさいに起こった、エネルギー売買企業エンロンの破綻と比べている。元経済学者のケネス・レイに率いられたエンロンは、ネット上で石油や電力の売買を行う仕組みを作り上げ、さらにデリバテブと組み合わせてレバレッジをかけ、あたかも永遠に成長する企業が登場したようなイメージをかもしだした。しかし、内実はお寒い限りで、IT革命ブームが終わりかけると、スキャンダルを起こして破綻してしまった。
1929年のアメリカ発の大恐慌を引き起こしたのは、かなり荒っぽい仕組みの株式から組成されたミューチャルファンドであり、1990年に崩壊した日本の不動産バブルは土地そのものがレバレッジをかけられ膨れ上がり、「財テク」という空しい資産バブルテクニックが可能になっていた。いうまでもなく2008年からの世界金融危機は、住宅ローン担保証券がレバレッジの道具となっていて、こうした担保証券を使ってさらに新たに証券を組成することが普通になっていた。
意外に忘れられてしまっているのが、GEのジャック・ウェルチ時代の経営で、彼は副社長のときに利益率を高めるには金融の分野が一番速いと気がつき、CEOとなってから元家電企業だったGEをノンバンク化することに精力を注いだ。使ったのがGEの株式で、まずは採算の悪い分野をどんどん売却し、バランスシートをきれいにして株価を釣り上げたのである。
ここからがレバレッジの登場で、その自社株を担保にしてノンバンクを含む優良企業を次々に買収すると株価は急上昇し、ウェルチも経営の神様と称賛されるので、GE株はさらに上昇して次の買収が楽になった。そういうやり方が称賛されているうちはよかったが、ITバブル崩壊に引きずられて歯車が逆転すると、株価は2分の1にまで下落して、金融部門はまったくの不調となった。それでも何とかもったのは、収益の49%を地道に稼いだ物作りの他部門があったからである。その後始末(非ノンバンク化)は次のCEOのイメルトがやるはめになったが、こうしたレバレッジ経営の破綻が、いまのGEの衰退の原因になったことは間違いない。
さて、仮想通貨の分野に戻ろう。仮想通貨の奇妙なことは、ビットコインをよく調べればすぐ分かることだが、金融業界が金満家向けの投機銘柄に入れるなど、さまざまな使い道を編み出して規制に反対してきたため、各国政府もまともに規制について考えていなかったといってもよい。経済紙の報道姿勢も現実を検証するよりも、投資が加速されて金融機関がビジネスにできれば、それでよいとしてきたと思われる。では、これからどのような規制が生まれていくのだろうか。実は、これはけっこう難しいのだ(写真はwsj.comより)。
英経済誌ジ・エコノミスト11月17日号の社説「これで仮想通貨は終わりなのか?」は、これまでの同誌の煮え切らない(と私には思えた)態度から、かなり規制についても具体的に踏み込んでいるように思われる。現状認識としては「がっかりするのは、ビットコインのブロックチェーンが発明されてから14年にもなるのに、約束されていた成果がほとんど実現していないことだろう」というものである。それならば、仮想通貨はあってもなくてもよいものと断ずるのかと思うと、そうでもないのである。
同誌によれば、過剰な規制をつくったり、仮想通貨を排除してしまうのではなくて、規制者は次の2つの原則に従って規制を考えるべきだという。第一に、他の金融分野と同じように、窃盗や詐欺を最小限にするようなものであること。第二に、金融市場の主流と仮想通貨を切り離して制度を考えること。なるほどと思う人もいるだろうが、私はこれは難しいと思うし、ほとんど不可能ではないかとすら思う。
まず、犯罪の温床にするなということだろうが、仮想通貨の利用が急拡大してきた分野というのは、実は、詐欺や陰謀の世界なのである。なけなしの蓄えを仮想通貨に投資する若者たちは、自分たちは時代の最先端だと思っているが、彼らはたんなる詐欺の犠牲者にすぎない。仮想通貨のほとんどは巨額保有者の資産増幅手段であり、そこに群がるペテン師たちのネタであり、北朝鮮はミサイル製造の資金調達に使ってきた。まだ有罪とはなっていないが、仮想通貨を使ってレバレッジをかける行為すらも、同誌も認めているように、必ずしも犯罪ではないかもしれないのだ。なぜなら、この仮想通貨というのは暗号資産と呼ばれているように、通貨でもなければ本当は根拠がないという意味で資産ですらない。こんなものを経済システムに入れ込んでしまうということ自体が、リスクと犯罪だけを増幅させているといえるのではないか。
また、メーンストリートの金融制度から仮想通貨の世界を切り離すのは、できそうでいて、本当は不可能だろう。仮想通貨を資産と認めるならば、その資産を使ってメーンの通貨や証券といった金融資産と交換するのは合法になるだろう。それを規制したところで、経済的取引において双方が合意してしまえば、これを消滅させることはできないはずである。つまり、この「原則」というのは、頭のなかで考えたもっともらしい画餅にすぎない。
さらに、同誌は仮想通貨の保有や取引について、ディスクロージャーを徹底するという視点も入れているが、こんなことは仮想とか暗号という言葉と矛盾するわけで、あらゆる暗号技術やデーター処理技術を用いて情報を隠し続けることが、実は可能と思ったほうが現実的である。
そもそも、そうした行政や政治からフリーになるという発想で生まれたのがビットコインだった。そして他の仮想通貨も行政や政治からの自由を暗黙の前提としている。つまり、どうしても適切に規制したいというのなら、民間による仮想通貨はすべて禁止して(それでも闇仮想通貨はいくらでも出てくるだろうが)、仮想通貨の取引は国家管理として行うしかないだろう。そのときには「ブロックチェーン」の技術も大いに使われるだろう。ただしそれは通貨の動きを国家と中央銀行が完全に管理するためであり、最初の仮想通貨のアイデアのまったく逆のこととなる。
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