関水渚のふてくされた顔がいい;キネマ旬報新人女優賞受賞
「関水渚」キネマ旬報新人女優賞(2019)
映画評論家・内海陽子
今年もキネマ旬報ベストテン発表の時季が来ました。本サイトでも内海陽子さんが「町田くんの世界」を評するなかで注目した、女優の関水渚さんが「キネマ旬報新人女優賞」を受賞しました。お祝いを申し上げるとともに、2月5日発売の同誌に掲載された内海さんによるインタビューのほんの一部を紹介いたします。
スマートな既製服がずらりと並ぶ中に、手作り感のある愛すべき一着を見出したような感動とでも言ったらいいだろうか。石井裕也監督「町田くんの世界」でヒロイン猪原奈々を演じる関水渚は青春の熱気を香ばしく放って、わたしの心を強くつかんだのである。……
「明るく見られることもありますが、わたしは悩みがちだったりネガティブだったりする部分もあって、そこは猪原さんと共通していて気持ちがわかります。台本にも笑顔がヘタだと書いてありますが、撮影当時は今よりずっと笑顔がヘタで、わかる、わかると思いながら台本を読んでいました」
普通なら単にふてくされた表情でしかないところに、その人間ならではのきらりと光るものを加えるのが監督や演出家の喜びだとすれば、彼女の表情にはそれを発見した石井裕也監督の愛情がたっぷり込められている。……
映画初出演のせいで、共演者との距離の取り方がわからず、ほとんどしゃべらなかったそうだが、劇中での強力なサポート役である栄さんを演じる前田敦子が、やさしく接してくれたそうだ。
「この前『山路ふみ子映画賞』で新人賞をいただいたとき、女優賞を受賞された前田敦子さんとお会いしましたが、わたしの衣装がずれているのを一生懸命直してくださって。すごくやさしいんです」……
今年1月公開の「カイジ ファイナルゲーム」では、主人公カイジの相棒になる、自称“ラッキーガール”の加奈子役ではつらつたる姿を見せる。
「映画2作目だったので、現場ではずっと緊張していました。たまたま直前にお会いした事務所の先輩の妻夫木聡さんに相談したら『やるしかないよ』と。とにかく無我夢中でした」……
目指す女優像について訊くと、憧れの人は数えきれないほどいらっしゃいますが、と前置きしたうえで、長澤まさみの名をすらりと口にした。今年5月公開予定の「コンフィデンスマンJP プリンセス編」で初共演を果たした。
「撮影は昨年9月に終わったんですが、長澤まさみさんと毎日ご一緒して、とてもお世話になり楽しい日々でした。人生におけるアドバイスもいただきました。お芝居に関しては、わたしがなかなかうまくできなくて時間がかかっても、何も言わずに待ってくださる。すごくやさしいかたです、女神ですね」……
猪原さんが、ただのふてくされ少女ではなく、向上心を持ったデリケートな少女であることを、関水渚は自然な軽みを添えて表現し、コメディエンヌの片鱗をものぞかせる。わたしは、女優というのはアクションができるコメディエンヌが最上だと思っているのだが、はたして関水渚はどう変貌するだろう。
「今後は“殺陣”をやってみたいです。運動は得意ではないんですけど、できたら楽しいだろうな。世界も広がると思います」
ほんの一部をご紹介いたしました。インタビューの全体は『キネマ旬報』(No.1832キネマ旬報ベスト・テン発表特別号 2月5日発売)をぜひお読みください。(構成・サンイースト企画)
なお、本サイトで紹介した、「愛がなんだ」「スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼」で好演した成田凌さんも、キネマ旬報助演男優賞を受賞しています。ぜひ、内海陽子の投稿ページをお読みください。
内海陽子プロフィール
1950年、東京都台東区生まれ。都立白鷗高校卒業後、三菱石油、百貨店松屋で事務職に従事。休みの日はほぼすべて映画鑑賞に費やす年月を経て、映画雑誌「キネマ旬報」に声をかけられ、1977年、「ニッポン個性派時代」というインタビューページのライターのひとりとしてスタート。この連載は同誌の読者賞を受賞し、「シネマ個性派ランド」(共著)として刊行された。1978年ころから、映画評論家として仕事を始めて現在に至る。(著者の新刊が出ました)
『愛がなんだ』:悲しみとおかしみを包み込む上質なコートのような仕上がり
『バースデー・ワンダーランド』:情感とスピード感に満ちた贅沢なひととき
『家族にサルーテ! イスキア島は大騒動』:けっして自分の生き方を諦めない大人たちを描きぬく
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