ブレグジット以後(5)グローバリズム批判というより反知性主義の問題か

英国がブレグジットに踏み出してから8年が経過した。さまざまな期待があったが、いまや圧倒的に後悔している英国民が多い。ここには経済問題だけではない、多くの要素が潜んでいるように思われる。ブレグジットをグローバリズム批判で説明してきた人は多いが、はたして英国民はそうした意図をもって離脱を決断したのだろうか。

英経済誌ジ・エコノミスト4月13日号は「なぜ人びとはブレグジットを後悔しているのか」を掲載して、内情を多面的に見ようとしている。「国民投票から間もない時点で心変わりすることは稀である。スコットランドやカナダ、あるいはスイスやノルウェイの(国民投票の)場合、時間が経由するなかで、国民投票による結果に対しての支持は、それに批判的になった人より多かった。しかし、どうやら英国のEUからの離脱のさいの国民投票は例外にあたるようだ」。

EU離脱反対の牙城とされたジ・エコノミスト誌が、やや皮肉を込めて述べているのは、当然といえなくもない。しかし、いまの世論調査の結果を見れば、それも無理ないと言えるかもしれない。ざっといってブレグジットは「まちがい」だったとする人が6割を超えており、「正しい」としている人の4割弱を大きく超えてしまった。保守党が仕掛けたブレグジットは懐疑派が多かったが、ジョンソン首相の時代に一時的に支持を得て、国民投票で決まったが、もう嫌だと思っている人がずっと多いのである。

こうした変化を生み出したのは、統計的にみれば「心変わり」が大きかったといえる。離脱賛成と反対がほぼ同比率だった2016年からみると、反対だった人のわずか6%が心変わりしたのに対して、賛成だった人が16%から20%の幅で心変わりをしてきた。ざっといってしまえば、英国の運命は、この心変わりによってバランスは大きくスイングしたわけである。

では、なぜそんな現象が生まれたのか。シンクタンクUKICEのジョン・カーティスによれば、「2016年以来の英国経済の低迷が注目に値する」という。また、リッチモンドの自由民主党員サラ・オルネイによれば、「離脱キャンペーンのさいの嘘情報が批判されるようになった」からである。さらに、政治評論家のピーター・ケルナーは「ブレグジットの主張者には確固とした考えがなかった」からだと述べている。

「多くの国民が2016年、EUを離脱することに賛成票を投じ、長期的には利益になると語っていた。しかし、そうした議論は今も実現化することがあまりにも少ない。賛成票を投じたグループは保守党に批判的になり、なかには改革を主張する右派グループを支持するようになった人たちもいる。いっぽう、2016年に離脱に反対した人たちは、経済的損失が生まれると懸念したことがやはり正しかったと受け止め、保守党支持から労働党支持に回った」

とはいうものの、「反ブレグジットの雰囲気が広がったことは明らかでも、もう一度(国民投票などに訴えて)再び前の戦いをやり直すまでに燃え上がっているわけではない」。そしてまた「もし、労働党が政権を奪取したとすれば、EUとの関係を発展させるには、政治的混乱があることが予想される」。これからの見通しも悪いことばかりで、そうであればこそ現実に実行してしまったブレグジットへの後悔がつのるのだろう。

たしかに、この英国の大胆な試みは、我が国の将来における外交および国際経済への対応に、多くの示唆を与えるものだった。しかし、ブレグジットがグローバリズムへの有効な回答だったのかといえば、それはあまりにも雰囲気に流された、そのとき次第の決断だったことは、まさにその後の英国民の不安定な反応から明らかだろう。ここにはジョンソン元首相のアクロバティックな言動に左右されたという側面すらある。

そう考えれば、この試みから我が国が教訓とすべきは、ブレグジットはグローバリズムへの深謀遠慮のある対応というよりは、グローバリズムに翻弄されたゆえの、単なる短慮であったと受け止めたぐほうがよいように思われる。日本でブレグジットを肯定的に論じてきた人たちの中には、同時に世論に懐疑的な大衆社会論を展開している者たちがいるが、その人たちこそ、英国の短慮に果てしない大衆社会化の危険性を嗅ぎ取るべきではないのだろうか。

もちろん、英国民が独立への気概を発揮する権利はあるし、そのマイナス面をも受け入れた人も少なからず存在しただろう。しかし、現在のような「ポスト・トゥルース」あるいは反知性主義時代の議論においては、ブレグジットを論じるにあたって(論拠が脆弱とされるグッドハートの著作など)自分たちの議論にとって都合のよい本を探し出すのではなく、もっと英国の事実(これも定義が難しいが)に基づいた、トゥルースそのものの検証が必要だったはずである。

●こちらもご覧ください

論拠が脆弱とされるグッドハートの著作

ブレグジット以後(1)英国とEUの「合意」の現実
ブレグジット以後(2)英国の経済と人口移動はいまどうなった?
ブレグジット以後(3)スナク首相のBrexit改訂版はEUとの関係修復の大逆転か
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