ブレグジット以後(4)「こんなものやめたい」6割が後悔している世紀の大英断

英国がTPPに正式に参加したが、報道したのは日本のマスコミくらいで、本国ではほとんど無視された。英国の国民が望んでいるのはEUへの復帰で、ブレグジットはもうやめたいというのが大方の本音である。ジョンソン元首相のペテン的な扇動に乗った国民の多くは「ブレリグレット」、つまり、ブレグジットを後悔している。

ブレグジット賛成派が「英国経済エリート」の牙城として批判していた英経済誌ジ・エコノミスト7月19日号は「ブレグジットは間違っていたと、57%の英国有権者が言っている」を掲載している。何でもやってみなければわからないというものの、やってみたら経済的に明らかなマイナスで、しかも、2016年の国民投票が僅差だったことを思えば、後悔だけが大きくなっていく、というのが同国のかなりの国民の心境なのである。この57%というのは調査会社YouGovの数値で、ざっと6割が「これは失敗だった」と思っているのだ。

それでも、国民投票で決断したことなのだから、元に戻ろうなどというのは英国の恥だと思っている人は急激に減っているようすで、同じYouGovでは「方向性は正しかった」という人は32%に下落。この調査では初めて、できるならEUに復帰したいと思っている有権者が51%と、過半数を超えてしまった。その理由をジ・エコノミスト誌はあれこれ上げている。

まず、ジョンソン元首相などのブレグジット派が主張したプラスの側面が、さっぱり実現していないことへの失望が大きいという。2016年以来、英国の経済がさっぱりよくならないこと、また、国民保健サービスがトラブル続きで保守党政権に対する批判が高まっていること、さらに、移民が減るはずだったのに、いまや逆に増加ペースが上がっている。

さらに、同誌によれば「保守党の評判が悪い」ことがもうひとつの理由である。ジョンソンという口先男の次に登場したのはトラスという口先女だった。2019年のジョンソン元首相が生み出した「地滑り的勝利」の栄光はいまや見る影もない。このときの勝利を支えた投票者は、かなりの部分ブレグジット支持者だったが、彼らがまったく考えを変えてしまっている。ブレグジット賛成に投票した支持者の37%が、いまやブレグジットは失敗だったと明言しており、75%が保守党政権の責任だと批判している(右図)。なんのことはない、いろいろ理屈をつけているが、ジョンソンに乗せられたことに憤っているものの、振り上げたこぶしの行き場がないのである。

「ブレグジットの支持者がEUとの不仲を修復して、この経済ブロックとの関係を修復しようと思うようになるのは容易なことかもしれない。しかし、それにはこれから数年以上かかることは間違いなく、2016年の決定をまったく覆してしまうという真剣な試みを(実際に)推進するのは、けっして容易なことではないのだ」

今回の英国TPP参加について、少しだけ触れておくが、冒頭に述べたように、主だった英国メディアはこの小さな出来事を無視している。そもそも、日本がリードしてきたことになっているTPP11なるものが、どれほど日本にとって成果を上げたのか、ちゃんとした報告を見たことがない。そんなものに参加するといったジョンソンの英国は、ただ単に、ブレグジットが生み出した膨大なマイナスの「煙幕」として持ち出したに過ぎないのに、律儀に報道を続けている日本のマスコミは世界中の笑いものだろう。そのことは、TPPについて触れるスナク首相の顔をみればすぐにわかる。

別に権威として取り上げるわけではないが、『日はまた沈む』で知られる元ジ・エコノミスト編集長のビル・エモットは、英国のTPP参加がたとえ効果があるとしても「それは小さく薄い」と切り捨てていた。そんなことは、TPPの中心国ということになっている日本にとっても、小さくて薄い効果すらないことを思い出せばわかる。

それどころか、アメリカのトランプ政権による一方的な日米経済協定において、TPPでの余計な「約束」と「表明」が、いかにマイナスの効果となったかを思い出せば、同じく後悔の対象であるべきなのだ。もはや日本がアメリカに輸出する自動車部品の関税がなくなることはないだろう。にも拘わらず日本人がTPPを後生大事にしているところをみると、反省のない分だけ日本人は英国人以下だということになる。

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