災害対策には、まず公務員の増員が必要だ

 いまも台風19号の爪痕は日本全国を驚かせている。今回の台風被害でやはり目立ったのは堤防の決壊であり、今日(10月16日)時点で70箇所以上もの場所で濁流が住宅のある地域に流れ込んだ。この70箇所というのは確認されたものだけで、これから数字はもっと増えていく見込みだという。

 この19号についてはこれから被害の実態が明らかになっていくだろうが、台風が巨大なだけに破壊力が大きく、しかもハザードマップで危険だとされていたところに被害が集まっている。普段はあまり気にしていない地域でも、意外な被害に遭った人たちが多いということである。安倍政権はもう随分前に「国土強靭化計画」を発表しているにもかかわらず、あまり効き目があったようには思えない。

 効き目がないというと、決まって返ってくるのが「財務省が財布の紐を絞めているので、せっかくの計画が実行されていない」という慨嘆あるいは反論である。もっと予算をかければ、とっくに日本には災害がなくなっていたかのような話をする論者もいる。しかし、その必要な予算が、まだ国債に回っていない民間金融資産の300兆円だとか、新しい経済学を導入すれば、いくらでも政府支出がひねり出せるという話になっていくので、とてもではないが真に受けるわけにはいかない。

 私はもう少し地道な方法で、しかも政府支出もそんなに出さなくても、いまよりましな災害対策が可能だと考えている。(すでに、ブログHatsugenTodayで述べているので、参照していただきたい)。それは、とくに台風15号のさいに多かった「災害が起こっても公務員が来てくれない」「お役所が正しい情報を知っていない」という苦情に典型的にあらわれている。実は、日本の公務員が少なすぎて、災害を事前に備えることはもとより、予測できなかった事態のさいにも、機動力を発揮して対応できないのである。

OECD Government at a Glance 2017より

 こういうと、いまだに「日本は大きな政府だろ」とか「公務員は多すぎる」とか、果ては「ウソをつくな」と言われるのだが、各種のデータを見ていただければ、それがまったく間違った認識だと分かるのである。たとえば、上のデータはOECDのものだが、一目見れば日本(JPN)の公務員数の人口比が、まちがいなく最低であることが明らかとなる。

 もう少し「公務員」の定義を広げたもので有名なのが「野村総合研究所」のもので、少し古いが、国家公務員、地方公務員をすべて入れた場合の比較であり、これでも圧倒的に日本の「公務員」は少ない。これまで、私は講演などで何度この話をしたか知れないが、いまだに「そんなバカな」とか「ウソでしょ」という反応が多いのである。

「社会実情データ図録」より

 次のデータは、こうしたさまざまなデータを総合したと思われる総務省のものだが、ここでも日本の公務員の圧倒的な少なさは変わらない。ここまで見てもらった他のデータを前提とすれば、そこに安倍首相にたいする「忖度」や、公務員の自己防衛とかは含まれていないことがわかるだろう。

「社会実情データ図録」より

 おどろくべきなのは、国際比較で公務員数がめちゃくちゃ少なく、しかも、そのため多くの問題が指摘されてきたというのに、日本の政府および地方公共団体は、なおも公務員数を減らし続けてきた事実が、さきほどのOECD調査ですでに明らかになっていたことだ。なぜ、こんなことが起こるのか。それは、政治家たちが「多い公務員を減らします」「大きな政府を小さくして市民本位にします」などと選挙のたびに連呼するので、国民は漠然と「日本の公務員は多すぎるのだ」信じてしまっていたことが大きいと思われる。

OECD Government at a Glance 2017より

 こうした現実を念頭において、冒頭に述べた最近の巨大な災害のさいに生まれた怨嗟の声を思い出していただきたい。こんな状況のなかで、ほんとうに公務員は被災地に駆けつけ、状況を把握できるのだろうか。できるわけがないのである。

 台風15号のさい、千葉県の災害復旧にみられた事態については、神戸国際大学の中村智彦教授が分析している(ヤフー・ニュース 9月17日付)。ここには悲惨な実態が浮き彫りにされている。まず、地方公務員の激減について触れ、「1994年(平成6年)に約328万人いた職員は、2018年(平成30年)には約274万人と55万人、17%も減少している」と指摘する。

 さらに、「市町村全体の職員数は、2005年度から2019年度の間で約11%減少しているのに対して、市町村における土木部門の職員数の減少割合は約14%であり減少割合が大きくなっている。こうした結果、技術系職員のいない市町村の割合は約3割に上っている」というのである。これでは駆けつけようがない。

 現実にどんなことが起きたのか、毎日新聞9月15日付の「『人手が足りない…』弱る自治体の体力 台風被害の調査進まず」を読んでおこう。「千葉県では台風15号の被害調査が進まない背景には、市町村のマンパワー不足がある」として、いくつかの市町村での公務員の不足が調査に遅れが出た例がレポートされている。最後に、次のように述べているのは、データを見れば頷ける。

毎日新聞 9月15日付より

「災害時の職員不足は全国的な課題だ。全国の市町村数はここ20年でほぼ右肩下がりで、1998年(154万人)から2017年(135万人)で12%減っている。昨年7月の西日本豪雨では発生当初に避難所の運営が滞り、その後もインフラの復旧にあたる土木系の職員らが足りない事態が生じた」

 もちろん、公務員を増やせば災害がなくなるとか、被災地の問題が消えるとかいいたいわけではない。しかし、災害が起った場合の状況把握から始まって、その対策を考えるスタッフがいなければどうしようもない。民間のライフラインとの連携をとるさいにも人員がいるだろう。まずなにより、災害が起ったさいのプロを養成しておかなくてはならない。

 公務員を増やせというと、必ず「公務員の給料は高い」との反応が返って来る。しかし、いまの公務員は「少数精鋭」になっているのだから、ある程度の給料高は当然だともいえる。また、これまでのところ、公務員数と公務員給与との関係は、ほぼ妥当なバランスを維持していることは、次のグラフでも明らかだろう。問題は極端に少ないことなのだ。

「社会実状データ図録」より

 したがって問題はどのような増員を行なうかであり、小さな地方公共団体には新しいスタッフを増設することのできないところも多いのだから、災害セクションだけは共有するなど、かなりの工夫が必要だ。どこかに専門集団を集めておくのでは、緊急事態のときに現場に駆け付けることができないだろう。また、あまりに専門的にしてしまうと、災害時だけのために多くのスタッフを飼い殺しにするという事態も生まれてしまう。

 しかし、多くの工夫が必要であるにせよ、ここまで極端に少なくなってしまった公務員では、「すぐに現場にかけつけろ」といっても、そもそもその人員も専門職も存在していないのである。私は、国民のすべてが公務員であるような旧社会主義を支持するものではないし、公務員だらけの国家が健全だとも思わない。しかし、あまりに少ない場合には、当然と思われる任務すら遂行できないのだ。まずは「公務員削減を行なって、サービスを向上させます」などといっている政治家たちの倒錯と欺瞞を改めさせるべきだろう。

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