ロシアとウクライナの停戦交渉(2)イスラエルが戦争に突入したのでウクライナはもういいのか
欧米諸国がウクライナ側とロシアとの停戦について協議を始めたという。米国NBC電子版が11月4日付で、「アメリカとEUの高官たちが、ひそかにウクライナ政府とロシアとの停戦の可能性について協議を始めている」と報じた。これはウクライナ戦争がスティールメイト(千日手、膠着状態)に陥っているとの判断によるが、それよりもイスラエル・ハマス戦争の勃発で欧米の支援が、十分にできなくなっていることを背景にしている。
「協議はウクライナが交渉を拒否するということもありうるという前提で進められていると、参加している高官たちは語っている。これは微妙な問題だとの断りを入れつつ、何人かの高官によれば、ウクライナ支援を続けている50カ国(NATOを含む)の当局者たちによって話し合われたという」(NBC電子版11月4日付)
もちろん、ウクライナのゼレンスキー大統領はこの協議について知っている。「彼はイスラエル・ハマス戦争が焦点をウクライナからイスラエルに移動させてしまったことを認めており、これこそロシアが求めていたことだと語った。しかし、ウクライナ軍のトップクラスにいまの戦況について報告させているが、ウクライナがスティールメイトに陥ったとは認めていない」(BBC電子版11月5日付)
BBCによれば、11月4日にキーウで開かれたEUのフォン・デア・ライアン議長との会談でも、「中東での戦争が焦点を(ウクライナ戦争)から奪ってしまいつつあることは間違いない」と認めつつも、「今の状態は、しかしながら、スティールメイトではない」と断じている。また、ゼレンスキーは「ロシアとの停戦交渉を始めるように、欧米からの圧力が強まっているという事実はない」と述べている。
日本のマスコミでは、この停戦交渉への動きを報じたのは産経新聞電子版11月4日付が速かった。「ゼレンスキー大統領は従来、停戦はロシアによる占領地支配の既成事実化と将来的な再侵略を招くとしてプーチン露政権との交渉を否定。ただ、ウクライナも欧米側の意向を無視できない見通しで、今後、停戦に向けた動きが表面化する可能性もある」。
いずれにせよ、ゼレンスキーの腹の中は「西側に裏切られた」との思いで煮えくり返ってことは間違いなく、「徒労感だけが残っている」とのコメントも口にしているようだ。極悪非道なプーチンを叩くという「大義」によってウクライナを支援してきた欧米が、もっと自国の政治家たちの利害にとって大きいイスラエルが戦争を始めたことで、これほど容易に掌を返せるのかという驚きは、国際紛争に詳しい者でなくとも感じていることだろう。もう、ウクライナ戦争は大義から大儀に変わったのか。
そして、バイデン政権となったアメリカが、トランプの非道を封じ、世界に民主主義の正義を打ち立てる、人類がたどり着いた理想的な国家ではないことも、(当然のことながら)これで誰の目にも明らかになるかもしれない。いや、事実は逆なのであって、バイデンが出かけて行くところ、ことごとく戦争は加速されており、世界は混乱の度を深めている。こんなご都合主義的な停戦に、ロシアがうかうかと乗るはずもなく、ウクライナは支援なしでプーチンと対決することになる。
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