今週の女優 浅野温子

このページは、内海陽子の『女優の肖像 その2』から、ひとりの女優をえらんで掲載しています。おなじく『女優の肖像 その1』のページもごらんください。

秋山庄太郎『女優の肖像』より

 また浅野温子の突拍子もない扮装が見たいと連載に書いたのは十年前のことだ。それが『さらば あぶない刑事』(2016・村川透監督)で実現したときは唖然とした。警察署の「重要物保管所所長」の任にある彼女は、安っぽい金髪のかつらをつけて登場。アニメのキラキラしたヒロイン風ファッション、脚がむきだしのミニのウェディングドレス姿まで披露する。シリーズを通しておきまりの彼女のお遊びだが、過激にパワーアップしていて、わたしは異様な満腹感を覚えた。

 いっぽうプロファイリングの達人である刑事に扮した『沙粧妙子―最後の事件―』(1995・フジテレビ)では、目元にブルーのアイシャドウをほどこし、沈痛な面持ちを崩さない。華奢な体躯を際立たせるように手ががっしりと大きく、銃を構える様子がさまになり、パンツスーツ姿がかっこいい。まさにハンサムウーマンである。かつて『聖母観音大菩薩』(1977・若松孝二監督)で見せた、あどけない巫女の面影は微塵もなく、なにか得体の知れない恐るべきものに仕える大人の女の苦悩が色濃い。

 むろん演技のプロはこれくらいの落差を演じられて当たり前だろう。ならば彼女に挑んでもらいたい物語がある。アカデミー賞受賞女優で、とんまなコメディエンヌにも大悲劇のヒロインにもなれる芸達者なアン・ハサウェイ主演の『シンクロナイズド・モンスター』(2016・ナチョ・ビガロンド監督)だ。

 ニューヨークでの仕事につまずき、故郷に帰ったグロリア(アン・ハサウェイ)は、バーを経営する幼なじみ(ジェイソン・サダイキス)と再会、彼の厚意でウェイトレスになる。だが彼女の弱点は大酒飲みであること。そしてある日気づく。ソウルの街を恐怖と混乱に陥れている怪獣の様子が、自分の仕草にそっくりだということに。

 なぜ彼女の仕草と行動が怪獣を動かすのか、論理的説明はなされないが、昔、幼なじみとの間に起きたトラブルが遠因らしい。夜通し飲んだ朝、公園をのし歩くとソウルの街に災害が起き、人が死ぬ。やがてなんと、怪獣に対抗するように巨大ロボットが出現するようになり、グロリアはパニックになる。

 ポイントは、ソウルの災害より彼女の周章狼狽ぶりにあるので、ここは浅野温子の腕の見せどころ。ロングヘアのてっぺんをさすったり、転んだり、ロボットと格闘したり。アン・ハサウェイは大仰な表情でがんばるが、浅野温子ならどうするだろう。さらに突拍子もない演技を見せてくれそうではないか。

 ところで、ときに彼女もしとやかな妻を演じる。『フリーター、家を買う。スペシャル』(2011・フジテレビ)では、竹中直人扮する夫、二宮和也扮する息子と暮らす専業主婦。うつ病を患い、動作も口調も緩慢だが優美である。しかし家族の葛藤を乗り越えたエンディング、ウェディングドレス姿で現れた表情には隠しようもない茶目っ気があふれる。やはり浅野温子はこうでなくては、とわたしは笑いをかみころす。

(2017・11)

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