今週の女優 菊池桃子

このページは、内海陽子『女優の肖像 その1』から、毎週ひとりの女優を選んで文章を掲載しています。おなじく『女優の肖像 その2』のページもごらんください。

秋山庄太郎『平成の美女たち』より

 あるときラジオから鈴木雅之と菊池桃子のデュエット曲「渋谷で5時」が流れてきたので耳をすましたら、菊池桃子の声がよく聴き取れない。鈴木雅之の豊かな声量をかきわけるようにして彼女の声を探っていたらけっこう神経を遣った。むろんそれは不快ではない。そもそも彼女の発声には、女でも思わず手を差し伸べたくなるような調子がある。

 アイドル絶頂期の1985年には日本武道館でコンサートを行っているくらいだから、彼女に手を差し伸べたいどころか彼女を自分のものにしたいと狂ったファンがどれほど多かったか想像がつく。『テラ戦士ΨBOY』(1986・石山昭信監督)では役名もそのままにMOMOKOという超能力少女を演じ、主題歌を歌った。助けを求める宇宙の生命体BOYに呼びかける声は、かすれて甘く母性的な響きがあった。

 超能力によって驚異的若さを保っているような菊池桃子は、二宮和也主演『山田太郎ものがたり』(2007・TBS)では育ちがよいために経済観念のない母親に扮して息子を振り回し、変わらない愛くるしさを振りまいた。そんな彼女にふさわしいのは、韓国映画『サニー 永遠の仲間たち』(2011・カン・ヒョンチョル監督)のような、女性の一〇代と四〇代を交互に描く映画だ。彼女なら両方の世代を演じられるだろう。

 専業主婦のナミ(ユ・ホジョン)は、高校時代の友人で余命2カ月と宣告されたチュナ(ジン・ヒギョン)に再会。彼女の頼みで、かつてチーム名を〝サニー〟と名乗った仲間を捜す役目を引きうける。次々に見つかる仲間の現状は恵まれてはいないが、能天気に喧嘩に興じた高校時代を思い出し、彼女たちは次第に活性化する。娘がいじめられていると知ったナミは仲間と一緒に不良高校生に挑み、その際、娘の制服を着る。このシーンを菊池桃子が演じたらと想像すると非常に愉快である。

 メリッサ・マッカーシーがアカデミー賞助演女優賞を受賞した群像劇『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』(2011・ポール・フェイグ監督)に菊池桃子を誘うのは失礼だろうか。とんでもないセックスシーンがあり、下ネタも強烈だからだ。しかし恋も仕事も不調のヒロイン、アニー(クリステン・ウィグ)が、親友の結婚式の準備であたふたする心情は共感を呼び、ラブコメディーとして相当上等である。露骨なシーンは避けるとして、そろそろ菊池桃子にも危ない演技に挑戦してもらいたい。

 彼女が久々に出演した映画『プリンセス トヨトミ』(2011・鈴木雅之監督)では、豊臣国松の母に扮して登場するが、あっという間に斬り殺されてしまう。監督が歌手の鈴木雅之と同姓同名のせいか、菊池桃子をもっと前面に出して印象づけてもらえないものかという思いが強まる。ひょっとすると、そうやって観衆や聴衆をやきもきさせることが、彼女の人気の秘密なのかもしれないけれど。

(2011・6)

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